道草のあと | 何もない明日

何もない明日

朗読人の独り言

何もない明日-煙突と空.JPG





いつかホームズと歩いたんだ。



鎖の音、息遣い、目に映る空。

それは確かにこの道だった。

記憶の中の風景と

目の前の風景が

どんなに変わろうと。

もう君がいなくても。



今では知らない誰かが住んでいる

生まれ育った場所を一人通り過ぎ、

いつかの夏、蛍を見た水田を思い出す。

そこは今スーパーマーケットと駐車場になっている。



記憶の中の風景と

目の前の風景が

あまりにも違いすぎて混乱しながらも

ヒントはそこいら中に散らばっている。

それを拾い集めながら、

一人進む。



公園の傍で死んでいた黒猫。

犬川へ抜ける秘密の通路。

錆びた橋の上で見た黄色い蛇。

追いかける君を、追いかけた私。



工場地帯が私達の遊び場だったね。

思い出したよ。

ようやく辿り着けた。

辿り着けないかと思ったけど辿り着けた。

一人だったけど。

辿り着けたよ。



君と歩いたあの小道も蛇を見た橋も

舗装されて小綺麗になっていた。

記憶の中の君の息遣いと歩いた。

思い出したよ。

あの時君は、



笑っていたんだ。