いつかホームズと歩いたんだ。
鎖の音、息遣い、目に映る空。
それは確かにこの道だった。
記憶の中の風景と
目の前の風景が
どんなに変わろうと。
もう君がいなくても。
今では知らない誰かが住んでいる
生まれ育った場所を一人通り過ぎ、
いつかの夏、蛍を見た水田を思い出す。
そこは今スーパーマーケットと駐車場になっている。
記憶の中の風景と
目の前の風景が
あまりにも違いすぎて混乱しながらも
ヒントはそこいら中に散らばっている。
それを拾い集めながら、
一人進む。
公園の傍で死んでいた黒猫。
犬川へ抜ける秘密の通路。
錆びた橋の上で見た黄色い蛇。
追いかける君を、追いかけた私。
工場地帯が私達の遊び場だったね。
思い出したよ。
ようやく辿り着けた。
辿り着けないかと思ったけど辿り着けた。
一人だったけど。
辿り着けたよ。
君と歩いたあの小道も蛇を見た橋も
舗装されて小綺麗になっていた。
記憶の中の君の息遣いと歩いた。
思い出したよ。
あの時君は、
笑っていたんだ。
