「何か良い物語があって
それを語る相手がいる限り
人生は捨てたもんじゃない。
問題は、俺の話を
誰も信じようとしないことだ。」
*
ピアノの鍵盤は88鍵と決まっている。
1から始まって、
88でおしまい。
無限の鍵盤では音楽は創れない。
無限なのは、
それを奏でる人間のほうだ。
生まれてから死ぬまで
一度も船を降りようとしなかったピアニストの物語を
急に思い出した。
あの人は
綺麗すぎると言ったっけ。
「オレニハキレイスギタ」って。
1900。
その場所を離れることができない自分の代わりに
帽子を海に投げた彼をどうしても連れ出したくて
描いた詩はどこへ届くのか。
どこへも届かないのか。
この鏡の向こう
このページの向こう
この画面の向こうは
どこに繋がっているんだろう
夜が閉じる前に
カーテンを開けて
扉を開けて
本の外に出よう
そして最後に切るのは
何のスイッチ?