夜が閉じる前 | 何もない明日

何もない明日

朗読人の独り言



「何か良い物語があって
 それを語る相手がいる限り
 人生は捨てたもんじゃない。
 問題は、俺の話を
 誰も信じようとしないことだ。」





ピアノの鍵盤は88鍵と決まっている。
1から始まって、
88でおしまい。
無限の鍵盤では音楽は創れない。
無限なのは、
それを奏でる人間のほうだ。
生まれてから死ぬまで
一度も船を降りようとしなかったピアニストの物語を



急に思い出した。
あの人は
綺麗すぎると言ったっけ。
「オレニハキレイスギタ」って。
1900。
その場所を離れることができない自分の代わりに
帽子を海に投げた彼をどうしても連れ出したくて
描いた詩はどこへ届くのか。
どこへも届かないのか。



この鏡の向こう
このページの向こう
この画面の向こうは
どこに繋がっているんだろう



夜が閉じる前に
カーテンを開けて
扉を開けて
本の外に出よう



そして最後に切るのは
何のスイッチ?