自分が何処からやって来たのか
どうしても思い出せなくて電車に乗り遅れる
という夢の中で、
君が素っ裸で泣いていた。
いつかは小さな女の子と一緒だったけれど、
今日は一人なのか。
それにしても、
君はもうすっかり大人なのに
本当に子供みたいに泣くのだなあ。
と少し可笑しくなりながら、
ゆっくりと君に近づいてゆく。
時刻は夜と朝の中間で
誰もいない道路のガードレールはひんやりと冷たくて
君は裸だからすごく寒そうだ。
さっきまで面白がっていたのに
君が余りにも無防備においおいと泣くもんだから
なんだか私まで哀しくなってきて、
「大丈夫、大丈夫。」
と呟きながら君を抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫。」
と何度も繰り返しながら、
他に言うことはないのかと自分を責める。
「大丈夫」ってなんて間抜けなセリフだろう。
大丈夫だったことなんてなかったじゃないか。
今まで生きてきて、
一度だって。
やがて朝がやって来ると、
君はいつのまにか器用に服を身に着けて
何処かへ行ってしまった。
たぶん恋人のところへ行ったんだろう。
私も何処かへ帰らなければ。
けれど、
自分が何処からやって来たのか
どうしても思い出せなくて電車に乗り遅れる
という夢の中で、
ゆっくりと君に
近づいてゆく。
大丈夫、
大丈夫と
何度でも君を
抱きしめる。