「ありがとう」 | 何もない明日

何もない明日

朗読人の独り言

「読んで。」
って言われたのが初めてだったから
涙が出るくらいうれしかったんだ。





そこはだだっ広い
コンクリート打ちっぱなしの空間で
天井も人物も遠かったから
はじまりからおわりまでただ淋しかった。
でも
照明が全部消えた時、
なんだかとても安心した
床に小さなライトの灯りだけが
点々と灯っていて
鐘楼流しみたいで
いや、実際見たことはないんだけど


広い空間に散らばる言葉や
会話のリフレインは音楽みたいで
はじまりからおわりまで淋しかったのは
それが淋しさの表現だったからなのかもしれない



どうしたら伝わるのかなあと考えた時に
ふと思い出したのは
去年知り合ったラップとギターの二人組のMCで、
確か「本気の『ありがとう』をどれだけ言えるかが大切」
みたいな事を言っていた。
それを聞いた時には正直ピンと来なかったんだけど、
昨日はそれをふと思い出して
今はそれ以外にないような気がした
「読んで。」
って言われた時に。



結局言えなかったんだ、
涙もおんぼろのリュックに仕舞って
だだっ広い空間の外に出たらおぼろ月夜で
「なのはーなばたけえに。」
って心の中で歌いながら駅まで歩いた。



そういえば
弟のように思っている人にも
『ありがとう』というタイトルの詩があって、
「今プリンターが壊れているから。」
って言って手書きで書いてくれた事がある。
今度それもどこかで朗読したいな。
もらった時は難しそうだなあと思ったんだけど、
今だったら読めそうな気がするんだ。
ありがとう、弟。



結局言えなかったんだけど
次会えた時、言おうと思う
ああ、また一つ理由が出来た
こうして続いてゆく
明日にも。




「ありがとう」