60歳で定年を迎えると、その後は1年契約の嘱託社員となることが多いです。
果たして、その時の賃金水準は?
2月2日の日本経済新聞夕刊(Q&A)からご紹介します。
定年再雇用で賃下げ「相場」はあるか
3割減基準に? 裁判例も参考 23年度、国家公務員が後押し
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Q:
60歳で定年になった後、会社の再雇用に応じたら給料が4割も下がることがわかりました。再雇用後の職場も担当業務も退職前と同じなのに、賃下げになるのは釈然としません。どの程度まで賃下げを我慢すれば良いのか「相場」のようなものはあるのでしょうか?
A:
日本の企業の定年は、高年齢者雇用安定法(高年法)により60歳を下回れない。この法律は65歳まで雇用確保を義務化し、70歳までの就業確保も努力義務としている。1961年4月2日以降に生まれた男性と、66年4月2日以降生まれの女性から、厚生年金の支給開始が65歳となるからだ。
しかし、企業社会では60歳を雇用の節目とする考えが依然強い。定年で解雇し再雇用する場合、会社は賃金を下げるのが一般的だ。
とはいえ一方的に下げられるわけではない。再雇用契約時に「労使合意」が必要だ。
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同一労働同一賃金について最高裁判所まで争ったハマキョウレックス裁判(2018年)の労働者側代理人で弁護士の中島光孝さんは「非正規社員となった退職者には、非正規・正規間の処遇で『不合理と認められる相違』を禁じたパート・有期雇用労働法8条が適用される」と話す。
そうなると、気になるのは8条の適用が争われた裁判例だ。中島さんは「ハマキョウ裁判と同日の長沢運輸裁判の最高裁判決から基本的な考え方が読み取れる」とする。
長沢運輸裁判は、再雇用後も業務が正社員と同じ嘱託ドライバーが基本給などを定年時に比べ2~12%下げられ、精勤手当などが払われないことは現8条とほぼ同内容の旧労働契約法20条に反するとして会社を訴えた。最高裁は賃金削減を不合理ではないと判断。一方、精勤手当の不支給は不合理として賠償を命じた。
この裁判でまず重要なのは賃金削減自体は法違反ではないとの判断だ。
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これらを総合し、やや乱暴に言えば「給与水準によるが1割、2割減は許容範囲だが、4割、5割減は違法かも」となる。
だが、民間企業の混迷は収束に向かうかもしれない。23年4月施行予定の改正国家公務員法に「定年を段階的に65歳に引き上げ、60歳到達後の俸給は60歳前の100分の70にする」との規定が入ったからだ。
同規定を管轄する人事院給与第一課の担当者は「厚生労働省の賃金構造基本統計と人事院の職種別民間給与実態調査で、民間の60歳以降の給与が7割程度(3割減)と把握し、それに合わせた」と説明する。
週休2日が中小企業まで広まるきっかけは官公庁の採用だった。今回も「60歳過ぎは3割減」がスタンダードになるのだろうか。弁護士の中島さんは「60歳以降の賃金の本旨について突き詰めて考えていない民間水準に、国まで合わせるのは疑問だ」と批判的だ。
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