悪人 | こぶたのしっぽ

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悪人/吉田 修一
¥1,890
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久しぶりに物凄くずっしりと読み応えがある作品に出会いました。


最初、


「悪人」!!


って、どーん!という表紙にインパクトを受けたのですが、小説の中身は更にそれを上回る素晴らしい内容のものでした。


物語は、複数の登場人物の視点から進んで行き、それぞれの視点が何度も変わりながら展開していきます。


ここに登場する人物達は一見、善人で被害者であったり、


逆に加害者で他人から見ると悪人に見えたりする人も、身近な人や、恋人から見れば善人で、


その更に逆で、親から見ればとても可愛い娘でも、一歩家から離れるとあまり良い娘、良い行いをしているとは言えない人物など、


様々な登場人物を、淡々と描いていくことによって、人間は善人に見える人も、ちょっとのキッカケで悪人になり得る現実、逆に悪事や犯罪を犯すような人も、実は不器用で純粋だったり、だからこそ犯してしまう悲しい現実、はたまた、根っから人の痛みを感じることのない実際身近なところにもいそうな小さな悪人、などなど、


人間の醜い部分、残酷な部分、そして現実のつらさ残酷さ、でも一方でどうしようもない愛情などが、特別飾られることなく、淡々と描かれることによって、リアルに浮き彫りに、剥き出しになっています。


しかも、人の運命や出会いの悲しさまで描かれていて、最後の方はちょっと泣けてしまいました。


作者は最初から最後まで全ての登場人物を真上から俯瞰するかのように、突き放すでもなく、寄り添うでもなく、適度な距離感で、淡々と描いていきます。


それが結果的に、読んだ後のなんとも言えない現実感の切なさ、厳しさ、そして温かさ、に繋がってるような気がしました。


これはホント、読み応えがある、素晴らしい作品でした。