「父からの手紙」小杉健治 | こぶたのしっぽ

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父からの手紙 (光文社文庫)/小杉 健治
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学生の頃は、沢山の小説を読んでいましたが、学生でなくなってからは小説を読むことが激減していました。


そんな私が、久しぶりに読んだ小説がコレです。


近くの本屋で、すごいイチ押しな感じでアピールされてたので、思わず買ってしまいました。



家族を捨て、疾走した父。


残された娘と息子には、毎年誕生日に父から手紙が届く。


そんな姉弟に、突然不幸が襲うところから物語は始まります。



この小説は、サスペンス、ミステリーとしても十分面白いし、人と人との絆、愛、を描いた作品としてみても、とても感動できるものでした。


まったく違う境遇の2人の人生を交互に描き、全く接点のない2つの人生が重なり合った時、多くの謎が解かれていき、明らかになっていく真実に、思わず涙がこみ上げてしまいました。


ストーリーの展開としては、サスペンス的な形で進んでいきますが、この作品で描かれているのは、まさしく”人間賛歌”です。


誰が悪いというわけではない、一人一人は一生懸命自分の人生を生きています。


時には愛する人のために自分が犠牲になることもいとわない。


しかし、この作品では、相手のために自分が犠牲になればいいんだ、というような自己犠牲の考えに対して、「その姿勢は間違いだよ、相手を本当の意味で幸せにはすることはできないよ」ということを、つきつけてきます。


誰もが一生懸命生きている。


しかし、一生懸命の方向を見誤ると、それは必ずしもいい結果には結びつかない。


でも、それでも、一人一人の愛情は本気なわけで、それが余計に切なく、同時に、それが人間であるともいえるし、それがキッチリと描かれているからこそ、最後まで読んだ時、涙が出そうになるんだと思いました。


サスペンス要素の謎解きだけでも面白いですが、それ以上の大きな”何か”が、読み終わったときに残る作品でした。