前回目次登場人物

ブライアンからようやく返事が来たのは、その日の昼過ぎであった。

コリンはリハビリを終え、デイビットとアパートに戻っていた。


何時もなら、直ぐに折り返しの連絡が来ていたので、デイビットは変だと感じた。


「どうした。こんなに連絡が繋がらないなんて初めてだ。何か起きたのか?」


「いや、情報が入ったもので、その確認に追われていた。」

ブライアンはばつの悪そうにした。


「情報?」


「ニックの元に、頻繁に訪問している男がいたとの情報が入ったんだ。」


「どんな男だ?もしかして、アルフレッド・ハンとかいう男か?」


「バイク『GSX1100Sカタナ』に乗っていた男で、今年の初めからニックの住むトレーラーハウスをよく行き来していたという。近くのガソリンスタンドの店員が目撃していた。そこで直ぐに、ガソリンスタンドへ行き、その店員に話を聞いた。その店員はバイクが好きで、よく覚えていた。ナンバープレートをちらっと見たら、フロリダ州のものとの証言を得た。更に、乗っていたのは、『小柄で華奢な奴』と言うじゃないか。アルフレッド・ハンの可能性が高いとみた。」


「ニックとアルフレッド・ハンの繋がっていると言うのか。」


「私も、その可能性があると思っていた。伝説のバイクと言われていた車種だから、持ち主はこのフロリダ州でも7人しかいなかった。だから、虱潰しに当たっていたんだ。」


「該当者はいたか?」


「6名は長身だった。『小柄で華奢』に該当したのが、1名いた。スワンスン夫人とかいう欧州では有名な不動産グループの総裁の奥方だ。御年79歳だが、スポーツウーマンだ。毎年夏はフロリダで過ごしている。私が尋ねたら、顧問弁護士が対応してくれてな。何でも、数回乗った後で、男友達にあげたそうだ。」


「男友達?」


「ご想像の通り、男妾だ。名前は、ジョージ・O・オートンという名で、音楽家だそうだ。顧問弁護士が、彼の携帯に掛けてくれた。弁護士から代わって話したら、若い男の声がした。ニックの友人だそうだ。昨年、ニックと出逢ってからの付き合いだそうだ。」



「友人か。で、外見は?」


「顧問弁護士から写真を見せて貰ったが、高身長でがっちりとした男だった。それに、アルフレッド・ハンとは全く似ても似つかない、金髪碧眼の男だった。」


「確認したのか。」


「ベトナムに向かっているジュリアンとは連絡が付かなかったので、アーサーに聞いてみたところ、彼の名前を知っていた。アーサーによれば、1ヶ月前にニックを訪ねてきた所、すれ違いざまにそのカタナを見たそうだ。ニックに聞いたら、『犯人を捕らえる為にカルフォルニア州へ出張した時に、世話になった男だ。』と言っていたそうだ。」


「とすると、情報屋か。」


「いや、私立探偵の助手をしていると言っていた。音楽だけでは食えないというのでな。アーサーの話の後で、FBIを通して身元を確認したから、間違いない。カルフォルニア州にある大手探偵事務所に籍を置いている。この1年は休職し、フロリダの音楽大学の学生をしている。」


「バイクの男は別人だったか。ニックは秘密結社を裏切っていなかったと言うことだな。」


「そうだ。ニックをしょっ引きたいが、どうしても証拠が見付からない。今も警察が張っているものの、職場のスーパーと住まいのトレーラハウスを行き来しているだけだ。盗聴もしているが、誰とも連絡は取っていない。シェインとミーシャの行方も未だ不明だ。」


「フランスから来た裏社会の男が借りている邸宅の方は、何の動きは見せていないと聞く。何の進展もみられないな。


側で2人のやりとりを聞いていたコリンは、ブライアンに質問をした。


「今日から、ルドルフとビリーが警察に職場復帰をしているよね。2人の様子はどう?」

「聴取される前と変わない様子だ。FBIががっちりと監視しているし、2人のいる交通課に、警察上層部は覆面警官を送り込んでいる。」


「それだけの監視が付いていれば、秘密結がビリーへ報復することは出来ないね。」


「心配するな。彼の家族に警護は付いている。それに、彼の奥さんはアフガン還りの元陸軍兵士だ。おっと、これから、FBIの仲間と打ち合わせがあるんだ。失礼する。」


電話が切れた後、コリンはデイビットに言った。


「ねえ、ブライアンの声、明るくなかった?」


=====


その日の夜遅くのことであった。


「良くやってくれた。謝礼は明日の朝一で振り込むよ。」

山本はハーレーXL 1200Lを運転しながら、携帯のハンズフリーのマイク越しに弁護士と会話をしていた。


携帯を切って3分もたたない内に、見慣れない番号からの呼び出し音がかかった。

『これは、ルドルフがシェインとの連絡用に使っている携帯からだ。』


山本はバイクを道路脇に止めると、携帯に出た。


「山本か。」

ルドルフの小さい声が聞こえた。

背後から水の音が、ジャージャーと聞こえていた。

恐らく、シャワーを浴びている振りをして、山本に携帯を掛けているのだ。


「自宅からかい?」

山本は懸念した。

ルドルフはこの日から職場復帰しているが、FBIと警察上層部の嫌疑は晴れていない。

職場でも見張り役を置き、自宅には盗聴器を忍ばせ、秘密結社との関連を見付け出そうとしていたからだ。


「ああ。心配ない。ちょっと話がある。直ぐに、これから言う場所へ来い。」


「FBIに尾行されないか?復帰初日から動くのはまずいよ。」

山本は慎重だった。


「金になる話だ。」


山本は飛びついた。

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