口入屋の叫びに、皆が集まった。
シェインが概要を話した。
コリンの入院費を、サラの友人だった元・実業家が支払ったこと、それを知り、コリンの恋人のデイビットが、サラと共に返しに行ったこと。
そして、その元・実業家の家が、たまたま自分達の隠れ家の隣にあったことを。
「じゃあ、あの2人は、今隣にいると言うことか。」
エドワードが、眉間に皺を寄せた。
「心配するな。調べたが、まだ俺達の居所をFBIに知られちゃいない。この家の大家は、裏社会の人間だ。その内、ブライアン達が探りを入れているだろう。それは先の話だ。今はじっとしていた方が得策だ。」
シェインが冷静に答えた。
「いや、連中にはここのマイアミの情報屋の親玉ジュリアンが付いている。大家がいくらごまかしたとしても、俺達の存在がばれるのも時間の問題だ。急いで、別のアジトに移った方が良いぞ。」
ルドルフはそれに反対した。
シェインは、心の中で舌打ちをした。
『臆病な奴だ。』
ルドルフを皆の前でリーダーと紹介した手前、彼を立てなければならない。
一瞬悩んだシェインの頭の中で、考えが閃いた。
「ん~。お前さんの言うとおりだな。じっとして、移動をするか。」
皆、『ハァ?』とした顔をした。
「どういうことだ?」
ルドルフが聞いた。
「穴蜘蛛地蜘蛛を使うのさ。」
シェインの言葉に、ジョーが大きく頷いた。
「忍者に忍術で対抗ですか。面白いですね。」
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サラとデイビットは、コリンの待つ病院へ戻った。
駐車場に着いた時、サラの携帯が鳴った。
サラの職場であるモデル事務所からであった。
携帯に出ると、社長からであった。
内容は、イギリスからモデル志望の若者が来ているというのだ。
新人モデルの面接は本来なら、部下が対応する。
しかし、入り口で若者を見た社長が気に入り、社長直々に面接をしたという。
かなり有望株なので、モデル・エージェントであるサラにも、是非面接をして欲しいと言ってきた。
かなり込み入った話になりそうだと思ったサラは、携帯に手を置き、デイビットに申し訳なさそうに言った。
「ご免なさい。急な仕事が入ったの。先に病室へ行ってて。」
「分かった。」とデイビットは車を降りた。
デイビットは、コリンの病室へ戻った。
病室には、イサオとコリンしかいなかった。
出掛けた時にはいた、猛はいなかった。
「猛さんは帰宅されたのか?」
デイビットの問いに、イサオは答えた。
「親父はうちの犬と猫の世話に帰ったんだ。コリンには本当のことを、たった今話した。」
「コリン、もう気にするなよ。」
イサオは優しくコリンに言うと、自分の病室へと戻った。
ベットに腰掛けていたコリンは、しょんぼりしていた。
「サラに知られちゃったね・・・。」
「過去を知ったとしても、サラはアレキサンダーに怒りはすれども、コリンは弟同然という気持ちには変わりない。」
デイビットは、コリンの隣に座った。
「本当?でも、ずっと黙っていたイサオには腹を立てていたでしょ?」
「いや。そんなことはない。金持ちとの契約に『邸宅で見聞きしたことは、家族にも言ってはならない。』という文言があるし、それをイサオにサインさせたのはサラだしな。その点は、サラは十分に理解している。イサオに腹なんか立てていない。サラは素晴らしい奥さんだ。もう少し経てば、コリンに会いに来るぞ。」
「良かった。安心したよ。」
コリンはホッとし、デイビットに寄りかかった。
「過去を断ち切ろうと必死でやってきたのに、今頃になって。くそっ。」
コリンは悔しそうに話し始めた。
「17年前、イサオとブライアンに助けられた俺は、高校に上がった。人生を新しくやり直そうと、高校生活を満ち足りたものにしようと努めた。勉強は苦手だったけどね。その分、部活動に力を入れたね。高校に
入っても陸上を続けたし、アメフト部のマネージャーの手伝いもした。」
「で、アメフト部の部長と副部長をしていた上級生の双子と出逢ったのか。」
デイビットの言葉に、コリンはぎょっとして、デイビットの顔を見た。
「弟のケビンから詳しい話を聞いたのか・・・。初めは、弟と付き合い始めた。その内に、いろいろあって、兄の方とも付き合うことになったんだ・・・。」
コリンの顔は段々と赤くなった。
2人の会話を遠くから、青戸猛が聞いていた。
家に帰る振りをして、人気の無い階段の踊り場に隠れ、かなり前からコリンの病室の様子を伺っていたのだ。
コリンは裏社会にいた人間と察していたが、他に重大な秘密があると睨み、元警察官である猛はそれが何かを探っていた。
もしかすると、その秘密が息子の勲が銃撃された理由の手がかりになるのではと思っていた。
しかし、その秘密は、17年前に勲がブライアンと協力して、当時14歳のコリンを金持ちから救い出したことであると知った。
深い衝撃を受けていた。