それから、7日の時が流れた。
その間、シェイン達はこっそりと動き、FBIとブライアン達の捜索の目を逃れていた。
シェインの知り合いの口入屋は、情報屋の仕事もやっている。
その昔、マイアミの情報屋の親玉・ジュリアンと組んでいたことがあって、ジュリアンの情報網を知り尽くしていた。
シェイン達は、裏社会からも隠れていた。
口入屋がアジトを訪れた。
この時間、アジトにはシェインとミーシャしかいなかった。
「山本とエドワードは、射撃場か?」
「いいや、エドワードは別の仕事中だ。山本はセレブ妻の相手だ。当面の生活費を稼いでいる。」
「シェイン、ニンジャと闘いたいと、燃える男達がようやく出てきたぞ。まだ3人しかいないがね。」
口入屋は、新しく作成したリストを持ってきた。
シェインは、安堵した表情を見せ、リストを見た。
「他の州の殺し屋か。これなら、マイアミに張り付いているFBIには分かるまい。これで、ようやく動くことが出来る。欲を言えば、あと10人欲しい。」
口入屋が付け加えた。
「早速、探してみる。17年前の事はもう少し待ってくれ。今、関係者に当たっている所なんだ。」
「古い話だ。出てくるまでには、時間が掛かるのは重々分かっている。報告を待つ。17年前だと、ニックが笑わなくなった時期と重なるな。個人的な事だが、俺はその理由も知りたい。時間があれば、それも探ってくれ。」
シェインは、リストから目を離した。
「それも調べてみるよ。そうだ。シェインの刑事仲間も、協力したいと言っていたぞ。彼にも頼んで良いか?」
「構わない。俺からも頼んでみる。」
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その夜、ニックは自宅のトレーラーハウスの中で、寝ていた。
シェパードの雑種の愛犬ロボは、ベットの脇で大きな寝息をたてて寝ていた。
ニックは、気配を感じガバッと起きた。
つられて、ロボも目を覚まして、体を起こした。
突然、トレーラーハウスのドアをノックする音がした。
ニックが、ドアを開けた。
ジョーが立っていた。
髪は肩よりも伸び、髭は生えて口の周りを囲んでいた。
顎鬚の部分が広く、ハリウッディアンと呼ばれる形である。
「どうして、来た。この時間は監視の警官がいるんだぞ。」
ニックが小声で注意し、ジョーを中に入れた。
「忍び歌に、『忍びには時をしるこそ大事なれ 敵のつかれと油断するとき』と、あるだろ。今、監視の警官は、パトカーの中で仮眠をとっている。そこを狙って来たんだ。」
寝ていた所を起こされても、ロボは尻尾を振って、ジョーに近付いた。
ジョーは、ロボの頭を撫でた。
「まだ、薬はあるぞ。」
「顔を合わせて、話したいことがあったのでね。」
朝日が4回昇った。
コリンの顔の傷の治り具合が、医者の見立てより早く回復し、この日にギブスが取れることになった。
「この時を待ってたよ。」
コリンは、朝からウキウキしていた。
デイビットから連絡を受けたブライアンも、病院へやって来た。
ナースステーションがざわついていた。
ブライアンが、看護師達の会話を盗み聞きした。
皆、コリンの顔のギブスが取れる話題で持ちきりだった。
若い女性看護師は、声が上ずっていた。
『デイビットが、不機嫌になる訳だ。』
ブライアンは心の中で笑った。
担当医が数名の看護師を引き連れて、コリンの病室に入って来た。
「今朝撮った、レントゲンの所見は問題ない。昨日言った通り、今から顔を覆っているギブスを外すよ。」
看護師が丁寧に、コリンの顔のギブスを取った。
頭部を手術した為、コリンの頭は5厘の坊主頭になっていた。
まだ頭部のヒビは完全に閉じておらず、コリンの頭に包帯が巻かれた。
顔は、まだ腫れており、茶色の顎鬚が生えていた。
看護師から借りた鏡で、自分の顔を見たコリンは、「ワイルドになったね。」と悪戯っぽく笑った。
側で見ていた、デイビットは胸が熱くなった。
ブライアンも同様であった。
イサオとサラは涙ぐみ、猛は微笑んだ。
「顔の腫れは徐々に引くよ。これから、顔の筋肉を動かすリハビリを開始するからね。そうすれば、左右対称の顔付きも元に戻るよ。」
医師はニコニコしながら、コリンに伝えた。
ギブスが取れたコリンの顔の診察が終わり、医師と看護師が退室すると、コリンは皆とハグを交わした。
その午後、何も知らないビリーは、今度は華やかな向日葵の花束を持って、コリンの見舞いに訪れた。
病室のドアから、猛の声が微かに聞こえた。
たじろいたビリーは、引き返した。
「遠慮はいらんぞ。」
後ろから、所用から戻ってきたデイビットが声を掛けた。
ビリーはビクッとした。
「怖がるな。今朝、コリンのギブスが取れたんだ。是非、会ってやってくれ。君に礼を言いたがっていた。」
「ギブスが取れたのか。それは良かった。助けた時は、顔が血まみれだったから、容態が気になっていたんだ。」
ビリーの表情が明るくなった。
デイビットは、先に病室に入り、ビリーの訪問を告げた。
ドアが開いたままだったので、コリンの低く甘い声が、廊下まで響いた。
「ビリー来てくれたんだ。嬉しいよ。」
ビリーは自分を奮い立たせた。
『今迄、ずっとFBIを騙し通して来たんだ。きっと、ニンジャや元裏社会の人間も誤魔化せる。何百回も予行練習したんだ。大丈夫だ。』
ビリーは、にこやかな顔をして、病室へ入った。