前回
、 目次
、登場人物
コリンは、ビリーが見舞いに訪れたことを聞いて、残念がった。
「会いたかったな。」
「来週に、又来るって言っていたよ。君の事を、気にかけていたからね。」
警備の警官が薔薇の花束を、空いていたコップに生けてくれた。
「優しい警官ですね。」
イサオが薔薇の花束を見た。
「はい。私もそう思います。彼は、とてもいい奴です。秘密結社の人間では無いと、信じています。」
警官はきっぱりと言った。
昼近くになり、イサオは再びリハビリへ、サラとその友人は外へ出た。
入れ替わりに、デイビットが、コリンの病室に入って来た。
「ビリーの花か。綺麗だな。」
「嫉妬しないの?」
コリンがくすっと笑った。
「当たり前だ。彼には妻子がいるし、コリンに対して、やましい感情を持っていないのは分かっている。」
デイビットは苦笑いをした。
『この点に関して、コリンは察しが悪い。俺が妬いているのは、さっきの女フォトグラファーだ。』
ブライアンは、ビリーの後を追っていた。
ビリーは車で、真っ直ぐに家に戻り、妻とキスをし、生まれたばかりの息子を風呂に入れた。
どこにでもある、普通の家庭であった。
ビリーを見張っていたブライアンは、近くに愛車を止め、持っていた双眼鏡で、自宅でのビリーの行動を観察したが、まだ怪しい点は出てこなかった。
「忍者の呪いをするとは、ビリーは忍者と何か関わりがあるのか。」
ビリーは、息子を風呂から上げると、キッチンへ向かった。
双眼鏡は、キッチンの隣にある居間を捉えた。
居間の本棚から、1冊の忍者の入門書を見つけた。
「その本から、呪いを覚えたのだろう。」
ブライアンは、その書物の題名を覚え、暫くビリーの様子を探った。
だが、ビリーは一人になっても、誰とも携帯をかけることなく、妻と床に就いた。
「やはり、ビリーは秘密結社とは無関係だったか。」
ブライアンは、愛車ベンツS HYBRIDを走らせた。
その翌日、マックス刑事が、コリンを見舞った。
「コリン、調子はどうだい?」
マックスは、側にいたデイビットにチョコレートの入った袋を渡した。
「良いのですか?ここへ来て。」
コリンは心配した。
「問題ないよ。今は、別の殺人事件を追っているからね。君達の事件とは、関わりが無くなったからね。それにしても、花が溢れている。地元TVや新聞では、君の名前は出ていなかったのにね。」
「俺に血を分けてくれた人、職場の同僚やアパートの住人が、花を持ってきてくれたんです。それに、噂を聞きつけた匿名の人から、押し花を贈ってくれたりしてくれて、病室も華やかになりました。」
「壁に立てかけてある額が、それか。白と淡紅色の花に、赤紫色の茎か。とても綺麗だね。」
「サラに教わりました。ハルタデの花というそうです。花言葉は『回復』だとか。」
「多くの人が、君の事を祈っているのだね。」
暫く談笑の後、コリンが切り出した。
「実は、昨日ビリーが病院に来てくれました。生憎、先客がいて、彼は警備の警官に花を預け、病室に入らずに帰ってしまいました。後ろの赤い薔薇が彼からのものです。でも、来週には又来てくれるそうです。」
マックスは、後ろの薔薇を眺めた。
「ビリーが来たのか。FBIの聴取が再開する前に、見舞いに来たんだね。」
「まだ疑われているのですね。」
「そうだ。脅されたと言っても、一時は秘密結社に加入し、ウェルバーの家を訪問していたからね。FBIは、何としても秘密結社の情報が欲しいんだ。」
「俺が誘拐された時、ビリーは俺に『大丈夫だよ。』と優しい言葉をかけてくれました。その彼が、秘密結社に自分から進んで入ったとは思えません。彼について、何かご存知でしたら教えて下さい。」
マックスは、ビリーの話をしてくれた。
「ビリーは警察に入ってから、希望していた爆発物処理班にいたんだ。優秀な警官だったけど、思った以上に過酷な職場で、彼はうつ病になり、休職したんだ。半年後、復帰したのは良いんだが、警察は彼を同じ班に戻さず、交通課に配属させたんだ。彼にとって不本意だったが、命令には従った。そこを、秘密結社に付け狙われた。元の部署に戻してやると、甘い言葉で言い寄ってきた。それでも、初めはきっぱりと断っていた。だが、秘密結社引き下がらず、妊娠したかみさんを殺すと、脅迫してきた。それで、止むを得ず、ビリーは秘密結社に入るざるを得なかった。」
「非道なことをしやがって。」
「ビリーから相談を受けたニックは、一人でアジトに乗り込んだ。勿論、コリンも助ける為でもあるし、元相棒の息子・ビリーをこれ以上悪事に染めさせない為でもあったんだ。」
「ニックは?」
「相変わらず、FBIの聴取を、連日受けている。彼は、何時も秘密結社とは、関係ないとしか言っていない。署の中は、彼を信じる者と、疑う者と半々に分かれている。私は、彼の言葉を信じたい。ルドルフに対しても、聴取が始まったが、彼も関与を否定している。2人の身辺や預金を調べているものの、何も出てこない。FBIは、内偵を使って、他のメンバーの洗い出しを行っているけども、未だ見付かっていない。逃走中のシェインとミーシャを捕まえない限り、マイアミの秘密結社の解明は、難しいだろうね。」
「ニューヨークとシカゴは、どうなっていますか?」
「ニューヨークは、麻薬所持で捕まった警官が吐いて、何人かしょっ引かれた。その内の一人が秘密結社のメンバーであると白状し出した。シカゴの方は、一人の刑事が、銀行に大金を預けていた事が判明し、事情聴取が開始された所だ。少しずつだけど、解明に向かっているよ。」
「そうですか。ニックにも会いたいです。あの時は、礼を言わないまま、病院に行ってしまいましたから。」
「ニックは、君のことを気にしていたよ。FBI捜査官に、しばしば君の状態を聞いている。」
マックスの話を聞いて、デイビットは思った。
『ニックは、今でも陰からコリンの事を見守っているのだな。まるで父親のようだ。』
「退院したら、彼の自宅に伺いたいですね。」
コリンは、ニックとビリーに救出された時を思い出していた。
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ルドルフは、ようやく自宅マンションにやった来たニックを詰問した。
「お前、イサオを遠方から撃っただろ。俺達は、プロの殺し屋じゃないんだぞ。」
「マリオンに頼まれた。イサオに大怪我を負わせろって。そうすれば、皆の視線はイサオに集中する。親父のニンジャの猛も、息子の側から離れなくなる。その隙にコリンを誘拐して、ブライアンを誘き寄せる作戦だとさ。」
本当は、シェインの指示だった。
ニックは、罪をマリオンに擦り付けた。
「大怪我だけか?」
「そうだ。殺してしまえば元も子もないからな。俺だって、怪我人に手をかけるなんて躊躇いがある。マリオンは、2人を引き離して、個別に攻撃しようとしたんだ。やっぱり、ニンジャは凄いぞ。瞬時に弾をかわした。」
「老人といえ、現役のニンジャだ。やはり、猛も倒さねばならないな。」
ルドルフは、苦い顔をした。
隠れ家にいるシェイン達は、動けない状態が続いていた。
仲間を集めようとしても、FBIと警察の目があるので、大っぴらに出来ない。
現在、元ヤクザの山本を含め、情報屋が作成したリスト11名の内、現在2名しか集まっていない状況だ。
もう一人の殺し屋は、イギリス人のエドワードと名乗った。
情報屋は、リストの残りの者を諦め、極秘に裏社会の他の人間へ声を掛けているものの、ニンジャや元・シークレットサービスのエージェントが標的だと知ると、多くの者は手を上げようとしなかった。
それに、同志のルドルフとニックもFBIに監視され、事情聴取を受けている。
「こうなったら、持久戦だ。」
シェインとミーシャは覚悟した。
それから、5日間が過ぎた。
シェインはニックから、ブライアンがあれから何回もトレーラーハウスを訪問して、秘密結社の事を聞きだそうとしている旨の連絡を受けた。
それと同時に、シェインの情報網からは、ブライアンが何度も、ニックに17年前の話を持ち出しているとの報告があった。
加えて昨夜、親友で情報屋のジュリアンが、ニックのトレーラーハウスを訪問し、口論を始めた。
シェインと通じている、監視していた警官によれば、詳しい内容までは分からないが、ジュリアンが17年前の事を蒸し返し、ニックがそれに腹を立てたと言う。
ブライアンとジュリアンが、ニックにしばしば昔の話を持ち出している事に対して、シェインは気になった。
その事実を一言も自分に伝えてこなかったニックに、疑惑が芽生えた。
「当時、何があったんだ?ジュリアンはともかく、ブライアンは、ニックと以前に接点があるのか?ニックは何故隠す。調べてみよう。」