イサオが狙われていると情報が入ってから、猛とサラ、コリンとデイビットは、交代でイサオの側にいた。
「どんなことがあっても、イサオは守る。」
コリンは固く誓った。
コリンは頼りにされると、人一倍張り切ってしまう。
隼とサラに頼りにされたのだ。
その気持ちに答えなくてはと、コリンは強く思った。
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シェインと秘密結社の同志達は、7日後に迫った計画を詰めていた。
その時も、皆が一番気がかりなのが、青戸猛のことであった。
「この前は、ニンジャに4人の男が倒された。今度も奴がいたら、えらいことになる。」
ロシアン・マフィアの生き残り、ミーシャが発破を掛けた。
「たかが、老いぼれ一人が何だ。前回はナイフだったから、いけないんだ。今回は銃を持てば、俺達が必ずニンジャを倒せる。」
「まあ、待て。ミーシャ。君の狙いは、ニンジャじゃないだろ。ブライアン・トンプソンと青戸勲だ。そこだけに集中しろ。」
シェインが、ミーシャを宥めた。
「“紫陽花”。イサオはニンジャの子供だ。息子が狙われると知って、ニンジャが黙って見ている訳は無いだろう。」
同志の一人が、シェインを仇名で呼んだ。
「だからこそ、我々が近付かない限り、ニンジャは息子の側から決して離れない。息子を守る為にな。これから、ニンジャを動かなくする様に仕向ける。」
「どうするのだ?」
別の同志が聞いた。
「同志の“老人”を使ってな。ウェルバーが嫌がっていた手を使う。その手で、イサオが倒れてくれれば、御の字だ。」
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その2日後。
サラと猛が、イサオの側にいた。
イサオはリハビリを兼ねて、廊下を歩いていた。
杖を使っていたものの、歩行距離は徐々に伸び、速度も元の状態に戻りつつあった。
隣のビルの屋上から、一瞬小さい光が見えた。
イサオは、サラを抱えながら、床に伏せた。
窓ガラスに大きな穴が開き、周りにひびが入り、床に銃弾が当たった。
周りが大声を上げた。
サラは、わなわなと震えた。
イサオはサラを落ち着かせながら、壁に移動した。
床に伏せていた猛は、ちらっと隣のビルを見た。
その瞬間、猛は身を再び沈めた。
すると、もう一発の弾が打ち込まれ、今度は猛から数センチ脇の柱に当たった。
周囲は、床に伏せる者、その場から逃げ出す者が右往左往し、混乱した状況になった。
警察は、隣のビルに急行した。
屋上に上ったが、既に狙撃手はいなかった。
隣のビル内、その周辺を探したが、犯人らしき人物は見付けられなかった。
ビルの空き室に潜んでいた“老人”という仇名の男は、警察がいなくなった頃を見計らい、携帯をかけ、シェインに連絡した。
「腕の立つ、お前ですら失敗したんだ。止む得まい。やはり、ニンジャは只者じゃないな。ともあれ、猛は息子の側に釘付けになる。その間に、ブライアンを倒す。イサオ達は、その後だ。」
防犯カメラを誤魔化す為、男はごく普通のビジネスマンに変装をして、ビルを出た。
イサオと猛が狙撃されたと聞き、コリンとデイビットは病院に急いで駆け付けた。
「怪我はない?」
コリンは2人を気遣った。
「大丈夫だ。コリン。俺達は無傷だよ。」
イサオは笑顔で、コリンに答えた。
「これから、秘密裏に別の病院に移ることになったんだ。」
猛が言った。
「この事は、私達だけしか知らないのよ。」
サラが釘を刺した。
「オッケー。俺達も決してこの事は誰にも話さないよ。」
コリンは、サラにウィンクした。
30分後、一台の救急車が別の病院へ移動した。
既に、警察から情報を聞き出していた、秘密結社の同志が裏口で待機していた。
シェインは、病院の設計図まで手に入れていた。
同志は、イサオの病室を確認すると、シェインに連絡を入れた。
「“紫陽花”。青戸勲は、最上階の奥の部屋に入った。」
「ご苦労。付き添いのメンバーに変りは無いか?」
「変っていない。あの4人だ。」
「よし。計画はそのまま続行だ。」
その夜。
情報屋のジュリアンは、ブライアン・トンプソンのiPhoneに掛けた。
「イサオさんと猛さん親子が狙撃されました。幸い、お二人ともご無事です。警察が、別の病院に移しました。」
「狙われた?!ロシアン・マフィアの生き残りが雇った殺し屋か?」
「それは不明です。犯人は、隣のビルから狙撃し、警察の目を眩ませて逃げました。防犯カメラを見ても、怪しい男が移っていなかった。恐らく、犯人は変装したか、防犯カメラの死角にいたのでしょう。」
「何てこった。私がもたもたしている内に、イサオが狙われてしまうなんて。」
「そうでもないでしょう。何でも屋から聞きましたよ。」
事件現場の近くに、裏社会の人間が多く利用する何でも屋がある。
イサオが撃たれた後、ブライアンやサラは、何でも屋の店長と会っている。
しかし、彼は「事件の夜に、怪しい人物は現れなかった。」と証言している。
先日、ブライアンは、再び店長と面会し、事件当日の顧客リストを見せて欲しいと頼んだ。
店長は初めは拒否したが、ブライアンが大金を渡し、顧客リストのことは他に漏らさないと言った。
それならばと、店長は顧客リストをようやく取り出した。
ブライアンは顧客リストを見た。
事件の起きる少し前、ニックが店を訪れていた証拠を見付けた。
店長に問い質すと、ニックはこの店の常連だと言う。
盗聴器や、隠しカメラを主に買っていたと話してくれた。
「まさか、ニックが事件当日に現場にいたとは、思いもしませんでした。」
ジュリアンは声を落とした。
「ニックは、犯人と共にいた可能性が高い。何としても彼の行方を掴まなければならない。」
「方々手を尽くしているのですが、どうしてもニックが見付からないのです。それに、犯人も。」
「そうか・・・。待てよ。ロボから探せば、糸口が見付かるぞ。シェパードの雑種の大型犬だ。ロボを連れては、ホテル住まいとは行かない。もしかすると、知人に預けていると思われる。広いアパートか、家に住んでいる人物にだ。」
「そうでした。ロボがいたんですね。誰かに預けても、散歩させるから、見付けるにはそう時間が掛からないでしょう。ロボから探ってみます。」
翌日の昼前に、ブライアンのiPhoneが鳴った。
ジュリアンからであった。
「ロボが見付かりました。」
「何処にいた?」
「それが、ペット・ホテルなんです。目がくりくりとして、人懐っこいから、従業員に人気者です。預け主は、ニックです。記載されている住所は、トレーラーハウスでした。そして、預かっている期間は、5日後迄なんです。」
「という事は、5日後には引き取りに来るということか。」
ブライアンは、5日後にペットホテルに行こうと決めた。
「ブライアンさん、私嫌な予感がするのです。5日後迄に、何かが起こるのではないかと。」
「私もそう思う。」
ブライアンはジュリアンとの会話を終えた後も、胸騒ぎが暫く続いた。