ルドルフ・ブラウンは、秘密結社を手に入れたが、FBIに24時間監視されている状態なので、身動きが取れなかった。
同志達との連絡は、“老人”という仇名の者が、ベランダからこっそりとルドルフの自宅を訪問して、指令を預かった。
「古典的だが、このやり方はFBIの目を潜り抜けることが出来る。」
“老人”は同志達に、ルドルフの指令を伝えた。
同志達は、新しいリーダーとなったルドルフこと、“狼”の方針に不服であった。
“狼”は、直ちに秘密結社を休眠させ、前の状態に戻すことに決めていた。
だが、同志達は、金を貰わずに、悪人の退治をすることに難色を示していた。
加えて、同志達の一人で、元組織犯罪課の刑事マリオンは、どうしても従兄弟の敵を取りたいと、息巻いていた。
マリオンは、従兄弟で風紀課の警官・カルキンと共に、事件の目撃者の口を封じる為に、襲撃した。
目撃者のいるホテルに、たまたま居合わせたコリンが、カルキンを倒し、目撃者を守った。
カルキンが撃たれた処にいたマリオンは、コリンを憎悪していた。
他の同志達は、ロシアン・マフィアの生き残りのミーシャが戻って来たことで、仕事を遂行しようと意見を出してきた。
ミーシャが持っている多額の現金に、彼等は魅了されていた。
“狼”ことルドルフは、“老人”を通して、同志達を抑えていた。
「今、動くと、FBIに捕まる。それに、この前の襲撃を邪魔した男もまだ見付かっていない。又動くと、男も必ず邪魔に入る。それに、ニンジャの猛もいるし、兄貴の隼もいる。自重した方が賢明だ。」
若い同志達は、“狼”の意見はもっともだと頭では理解していた。
感情では、どうしても動きたいと、堪え切れなかった。
同志達は、“紫陽花”という仇名を持つシェインの隠れ家に集結した。
その中には、ミーシャや、妊娠中の妻を持つビリーがいたが、“老人”は参加していなかった。
彼等を束ねているシェインが言った。
「FBIやコリン達は、俺達が動かないと見ている。その隙を突く。イサオには、手厚い警護が付いている。今回は、ブライアンだけ片付ける。俺達がブライアンの所を襲う事はしない。今度は、奴を俺達の所に誘き寄せる。」
「イサオはいいのか?」
「今回は見送りだ。ミーシャの兄達の敵は、そもそもブライアンだ。“老人”を使って、俺達が、イサオを狙っているという嘘の情報を流す。彼は、情報屋達とコネがあるんだ。連中を通して警察にタレこんで貰う。当然、警察やブライアンはそっちに目が行く。その間、俺達は、罠を仕掛ける。」
シェインは、罠の仕掛けを説明した。
同志達は納得した。
「それなら、ブライアンは手が出せないな。」
「そうさ。だから、“エケベリア”を呼んだ。」
“エケベリア”という仇名のビリーは、立ち上がって言った。
「部品を揃えている最中だ。」
「機械工学の専門で、元爆発物処理班にいた“エケベリア”がいれば、百人力だ。ここに“老人”がいないのは、火薬を手に入れる為に出張中だからだ。」
シェインが、宣言した。
「3日後に、イサオの兄貴・隼がモントリオールに旅立つ。連中が一息ついた所を、俺達が急襲する。皆、心して準備してくれ。」
「邪魔する男が、又俺達を引っかき回したら?」
“エケベリア”が聞いた。
「今回は問題無い。ミーシャを入れて、俺達は11名しかいない。計画が漏れる事は無い。万が一の事があっても、俺達には盾がある。安心しろ。」
同志の一人が手を上げた。
シェインは発言を許した。
「“狼”には、この計画を伝えてあるのか。」
シェインが答えた。
「報告した。了解を得ている。ブライアンの後に、イサオをじっくりと料理しろとの命令だ。まだ奴は回復していない。焦る必要は無いとな。」
嘘であった。
シェインと“老人”は、ルドルフを見限っていた。
=====
コリンとデイビットが、イサオの側にいた時に、ブライアンが訪問した。
イサオに秘密結社の事を知っているかを質問したり、事件当夜の事を話す為であった。
サラと猛には、まだ内緒にしていた。
話のウラが取れから、2人に伝えようとしていた。
ブライアンは、この日に備えて、アトランタへ飛び、目撃したアルコール依存症の男性と面会し、話を聞き出している。
男は、母親に語ったとおりの話をした。
野球帽を被った男が、イサオの頭を撃ち、助けたと。
病室で、ブライアンはまず初めに、昨年のハロウィンにロシアン・マフィアが、ブライアンの別荘を襲撃した件を話した。
「そうだ。僕は無我夢中で、ブライアンを助けたんだ。爺さんと親父に教わった忍術が、使えるとは思わなかったよ。」
イサオは、当時を思い出していた。
次に、ブライアンは、ロシアン・マフィアの残党が、彼とイサオの殺害を、警察内の秘密結社に依頼した事を打ち明けた。
「警察に秘密結社?昔の日本のドラマみたいだな。」
イサオが答えた。
彼の様子だと、秘密結社の事は全く知らない。
ブライアンが、事件の目撃者がいて、撃たれた時の詳細な話をした。
イサオは、信じられないといった表情をした。
「そんな。撃った男と会話していたなんて。どうしても、思い出せないんだ。撃った男が、僕を助けたとはね。警察には話したのかい?」
イサオは、事件の事は覚えていなかった。
「いいや、まだだ。目撃者は虚言癖があるので、慎重に裏付けしてからだ。」
事件の夜、何故現場に行ったのか、ブライアンは尋ねた。
「あそこの大通りに、アジアの食材を扱っている店があるんだ。日本のインスタントラーメンが安く手に入るから、しょっちゅうあそこの店を利用している。そこに買い物に行ったと思う。」
「何故、あの裏通りに行ったのか?」
「う~ん。どうして行ったのかなぁ。」
イサオは考え込んでしまった。
ブライアンは口には出さなかったが、友であるイサオの周辺を調べようと思った。
記憶が銃撃で飛ばされた今は、そうする他は無い。
コリンとデイビットは、ブライアンの次の行動が分かっていた。
協力すると、心を定めていた。
「話が変るけど、兄貴が警視庁を辞めた。前から色々あったようだけど、親父の映像が止めを刺したんだ。僕は、兄貴のことが心配だよ。」
「隼さんは今何処に?」
「そろそろ来る頃かと思うよ。親父とは気まずくなっているから、見舞いをコリン達がいる時間にしているんだ。」
一向に隼が来る気配が無い。
他の用事があるので、ブライアンは退室した。
「どうしたのかな。あと3日しか、マイアミにいないから、遊びに行っているのかもね。」
コリンはiPhoneをチェックしたが、誰からも着信は無かった。
時間が少し経ち、コリンは、所用で病室を出た。
廊下に出て、さり気なく隼を探した。
カフェテリアも見て回ったが、隼はいなかった。
「あら、誰か探しているの?」
通りすがりの看護婦が声を掛けてきた。
「イサオのお兄さんです。時間になっても来なくて。」
「お兄さんなら、お父さんと屋上に行ったわよ。」
看護師が教えれくれた。
コリンは屋上へ向かった。
屋上で、青戸猛と隼が口論をしていた。