サラごと床に伏した瞬間、銃弾が2人の上を掠めた。
コリンは、瞬時にサラの上に覆い被り、植木鉢の陰に隠れると、ベレッタM92FSを撃った。
サラは真上の銃声に、悲鳴を上げた。
ジョニー・トンは、シンディ・チャーを部屋に入れると、ドアを閉めた。
コリンは、警護していた警官達のいた方を植木鉢と壁の隙間から見た。
2人の警官は倒れていた。
頭から血を流して。
廊下の奥から、サイレンサー付きの拳銃を撃ってくる、目出し帽を被った男が2人いた。
コリンは、必死に応戦した。
お互いに弾が切れ、一時銃撃戦が収まった。
その時、ジョニー・トンがドアを少し開けた。
コリンは後ろを振り向き、ジョニー・トンに頭を下げる様にと手振りで指示をした。
小声で、下にいるサラを部屋に入れる様にと、頼んだ。
ジョニー・トンは、しゃがみ込みながら、サラの足を引っ張った。
すると、再びサイレンサーの音がした。
サラも悲鳴を再び上げた。
ジョニー・トンは急いで、シンディ・チャーとも協力し、サラの足をさっと引っ張り、部屋の中に入れた。
弾倉を入れ替えたコリンは、再びベレッタM92SFを撃った。
「話が違うぞ!こいつ、銃の扱いに慣れている!」
コリンに銃を撃っている男1人が、もう一方の男に向かって叫んだ。
「こいつじゃない!奥の部屋にいる男が標的だ!さっさと、こいつを片付けろ!」
もう一方が、男に指示を出した。
「OK!頼むぞ!」
1人が廊下の奥から弾を撃ち、もう1人は援護射撃を受けながら、植木鉢の間を移動して、少しずつ間合いを詰めていく。
コリンは、1人の男が近づいて来ない様に、必死に撃った。
しかし、2人かがりで撃ち返して来るので、コリンは防戦一方だった。
弾が尽きかけてきて、コリンは焦り始めた。
ふと、胸元に物が当たった。
ジョニー・トンが投げたものであった。
彼が護身用に所持していた、シグザウエルP232であった。
「有難う。恩に着るよ。」
コリンにとって、大きな助けとなった。
シグザウエルP232を左手に持ちながら、右手でベレッタM92FSを撃ち続けた。
コリンのベレッタM92FSが、弾切れした。
その時、1人の男がサイレンサー付き拳銃を構えながら、コリンの元へ突進した。
「馬鹿野郎!早まるな!」
廊下の奥にいた男が叫んだ。
コリンは、突進してくる男の隙を突いた。
シグザウエルP232を、男の右目に向かって撃った。
頭を撃ち抜かれた男は倒れた。
「畜生!撃たれやがった!」
廊下の奥にいた男が、非常階段から逃げだした。
コリンの後方から、警官がようやく駆け付けたのが見えた。
警官は、コリンに銃を突きつけた。
警官の言われるまま、コリンは銃を手放し、両手を後頭部に回した。
ジョニー・トンとサラが、部屋から出てきて、警官に事情を説明した。
警官は、銃を下ろした。
コリンが叫んだ。
「病院にいるイサオ達が危ない!早く、応援を病院に回してくれ!!」
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サラ達が、ジョニー・トンのホテルに着く少し前であった。
病室で、男性の看護師が訪問していた。
「点滴を取り替えましょう。」
看護師が、新しい点滴に取り替えようとした。
デイビットは、外に人がいる気配を感じた。
この時間も、職員が廊下を歩いてるが、それとは全く別のものであった。
「まだ、今のが残っていますがいいのですか。」
青戸猛は、看護師に言った。
彼も何かを察している様子だった。
「はい。問題ありません。新しい薬剤を入れたものに取り替えるようにと、医師から指示が出ています。」
微笑んでいるが、看護師の目は笑っていなかった。
『この看護師、嘘を付いている。』
青戸猛は悟った。
「医師を呼んで下さい。」
「えっ?」
青戸猛のはっきりとして威厳のある言葉に、看護師はたじろいてしまった。
看護師の態度に、デイビットも『こいつは偽者だ。』と勘が働き、看護師の後ろに付いた。
すると、その背後から、男達3名が入室して来た。
男2人は看護師の格好をし、残りの1人は白衣を着用していた。
白衣の男が、ドアを閉める瞬間に、鍵を掛けた。
先に入った男を含め、暗殺者達は一斉に、小型のナイフを取り出すと、青戸猛とデイビットに襲い掛かった。
青戸猛は、頚動脈を狙ってきた白衣の男の手首を掴み、捻った。
白衣の男は、青戸猛の太腿を思い切り蹴り上げた。
青戸猛が苦痛を堪え、手首を捻り続けた。
小型ナイフが落ちそうになっていた。
もう1人の男が、襲い掛かった。
青戸猛は、手首を捻っていた男を、もう1人の方へ投げ飛ばし、2人は勢いよく床に倒れた。
デイビットを襲った男は、デイビットから激しいパンチを目に浴びせられて怯んだが、直ぐに体勢を立て直し、ナイフを彼に向けた。
男は防御と攻撃を同時に行い、デイビットはこの男は中国武術を学んでいると見た。
『他の男達も、格闘技の心得がある。それに、病室の襲撃に合わせて、小型ナイフを選んでいる。やはり、警察内の秘密結社か。』
床に倒れていた男達が、起き上がった。
男達は、青戸猛に向けて小型ナイフを向けた。
青戸猛は間合いを取る為、咄嗟にテーブルに置いてあったミネラルウォーターが入った大型のペットボトルをつかみ取り、小型ナイフに応戦した。
小型ナイフは、ペットボトルを切り裂き、床に水がこぼれた。
白衣の男が、足をほんの僅か滑った。
その瞬間、青戸猛は、力強く男の胸を突いた。
男は、再び床に倒れると、悶絶した。
もう1人の男が小型ナイフを、青戸猛の目の前に突き出した。
青戸猛はサッと避け、目の前にあったタオルを鞭の様に使い、男の目、鼻、顎を、瞬時に叩き付けた。
男は体をすくめた。
青戸勲とデイビットが闘っている隙に、さき程点滴を入れ替えようとした男が、イサオに小型ナイフを振り下ろそうとした。
青戸猛が、男の手を蹴った。
男の手から、小型ナイフが落ちた。
ようやく、1人を倒したデイビットが、その男の首を、背後から手刀で叩き付けた。
その男は、床に崩れ落ちた。
残る1人が、青戸猛とデイビットに迫られ、ドアへ後退りした。
病室の異変に気が付いた、職員がドアを激しく叩いた。
清掃作業員が、合鍵を取り出すと、ドアの鍵を解除した。
ドアが開いた瞬間、小型ナイフを持った男が飛び出してきたので、職員達は悲鳴を上げ、廊下を空けた。
デイビットは追いかけようとしたが、イサオの身の安全の為、止めた。
男3人が倒れている現場に恐れをなし、職員は病室に入ることをせず、遠巻きに見ていた。
清掃作業員が、病室の中に入るなり、銃を取り出した。