病室を突然訪れた、シンディ・チャーは、青戸勲が撃たれた現場にいたと告白した。
病室に緊張感が張り詰めた。
シンディ・チャーは、若干怯えた。
「もしかして、ジョニー・トンさんと映画を一緒に見た方ね。」
サラが優しく声を掛け、シンディ・チャーを病室へ入れた。
コリンが、椅子をシンディ・チャーに譲った。
彼女は「有難うございます。」と言って、椅子に座った。
「どうして、ここにいらしたの?」
サラが質問した。
「私、ジョニー・トンを探しているのです。イサオさんの事件から、会う機会が減ってしまって。先日、彼から暫く会えなくなると連絡が入ったきり、携帯にも出なくなったのです。私は、とても不安になり、彼の友人に聞いたら、偽警官に酷い目に遭わされて、今は警察の保護下にいると知りました。私、居ても経ってもいられなくって。」
「何故、警察では無く、ここへ?」
「先に、警察へ行ったのですが、マックス刑事からジョニーの居所は教えて貰えなくって。仕方なく署を出たら、外で煙草を吸っていたニック刑事と会ったのです。彼は、『自分の口から教えられないが、サラさんなら、ジョニーの居場所を知っているよ。』と、教えてくれました。それで、ここに来たのです。」
ニック刑事は、以前サラに内緒の話として、ジョニーがホテルで警察の保護の元で生活していると打ち明けているのだ。
「あの刑事は、無表情で、気味が悪い奴だと思ったけど、良い所もあるんだね。」
コリンが言った。
「お願いがあるの。シンディさんの口から、事件当夜の事をお話して下さい。」
サラの頼みに、シンディ・チャーは事件の話をしてくれた。
ジョニー・トンとシンディ・チャーは、同じ大学に通う同級生であった。
同じクラスを取っていたが、2人は会話はしなかった。
暫くして、シンディ・チャーは、ジョニー・トンの視線を感じる様になり、彼が自分に好意を持っていることを悟った。
彼女も好感を持っていたが、内気な学生同志、お互いの気持ちを打ち明ける事は無かった。
5ヵ月後、ジョニー・トンがようやく、シンディ・チャーに声を掛けた。
彼は、映画に誘ったのだ。
シンディ・チャーは、誘いを受けた。
映画は、アカデミー賞を取った戦前を舞台にした人間ドラマで、2人は初めてのデートを楽しんでいた。
カフェで、軽く食事をした後は、ジョニーはシンディをアパートまで送ろうとしていた。
その時、裏路地から話し声が聞こえた。
「話し声ですって?」
サラは初耳だった。
「ええ、ジョニーは車道側にいて聞こえなかったのですが、私は裏路地側なので、1人の男性の声が聞こえたのです。」
「何て話をしていたの?」
「声が小さくて、詳しい内容までは分からなかったのですが。短い言葉が聞こえました。その直後に、銃声が聞こえたのです。」
『イサオと撃った男は、面識があったのか?!』
皆の心に小波が立った。
もしかして、助けた男は撃った犯人を知っているかも知れない。
だからこそ、今も姿を現さないのだろうと、コリンは考えた。
「銃声が聞こえて、ジョニーと私は、裏路地へ駆けつけたのです。」
シンディ・チャーは一呼吸して、話を続けた。
「初めは、現場に行くのが恐ろしかったのです。何故なら、裏路地近くには何でも屋があって、怖い人たちが頻繁に訪れていましたので。だから、撃たれたのは怖い人だと思っていました。だけど、服装はちゃんとしていたので、びっくりしました。」
サラ達は、何度かその何でも屋に足を運んでいた。
店主は裏社会に繋がりのある人物だが、愛想が良く、サラに対しても丁寧な応対をしてくれた。
店主は、当日怪しい人物は来なかったと証言している。
それ以降の話は、ジョニー・トンの証言とほぼ同じであった。
「助けた人は、野球帽を深く被った中年らしき男性でした。顔まで見れませんでしたが、私達に救急車の手配をお願いしていました。ジョニーが、携帯で通報し、私達は上着を提供しました。助けた人は、私達に撃った犯人の特徴を教えてくれました。赤い髪の男性と。」
「それから、助けた男性は、救急車が来る直前に姿を消したのね?」
「はい、そうです。」
コリンは、直感で思った。
助けた男性は、嘘の証言をしているのではと。
撃った犯人の特徴について、嘘をカップルに伝え、姿を消した。
警察は、カップルの証言を頼りにする他無い。
では、一体何の為に?
捜査をかく乱する為か、それとも犯人を庇う為か。
「有難う。シンディのお陰で、夫の事件の事が、少しずつ分かってきたわ。」
サラは礼を述べると、シンディ・チャーを、ボーイフレンドのジョニー・トンが滞在しているホテルまで送る事にした。
「コリン、あなたも付き合って。お父さん、直ぐに戻ります。」
サラ、シンディ、コリンは、サラの車に乗り、病院を出発した。
入れ替わりに、トラックが一台、病院の地下駐車場に止まった。
荷台の中は明かりが灯り、数名の男達が、銃の準備をしていた。
「いよいよだ。」
“老人”を筆頭に、男達がトラックから降り立った。