コリンとデイビットは、何時も通り、夜に病院に着いた。
コリンは邪悪な気配を感じた。
「どうした、コリン。」
デイビットが尋ねた。
「嫌な気配を感じたんだ。」
コリンは、辺りを見渡した。
病院の入り口は、人の出入りがあり、怪しい人物は見当たらなかった。
「気のせいだった。」
コリンとデイビットは、病室へ向かった。
1人の清掃作業員の男が、2人の様子を柱の陰から見張っていた。
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アルベルト・ウェルバーの自宅に、殆どの配下が集められた。
その中には、“老人”という仇名の手下も含まれていた。
彼は、銃の腕前は配下の中で一番であり、アルベルトには忠実で、どんな汚い仕事も淡々とこなしているので、アルベルトは絶大な信頼を置いていた。
その為、今回は重要な仕事を任せた。
青戸勲の暗殺である。
今回の標的は、あと2人。
ブライアン・トンプソンとジョニー・トン。
ブライアン・トンプソンは、警察に呼ばれ、マイアミに滞在している。
彼のスケジュールは、把握してある。
奴の居所を狙い、ニューヨークの同志が暗殺する手筈になっている。
その為、ニューヨークからも同志が数名派遣されていた。
もう一人のジョニー・トンは、親戚の店を離れ、警察の保護の下でホテルに泊まっていることが分かっている。
配下をそれぞれ役割分担を振り分けた。
手順も細かく打ち合わせした。
アルベルトは、「決行日は明後日の夜。」と定めた。
その時、一人遅れてきた配下がいた。
彼の名はビリー・テンニース、まだ若く、妊娠中の妻がいた。
「ビリー、お前は、産休といったばかりだぞ。今日のこと誰に聞いたんだ。」
「俺が言ったんだ。彼にも参加させないと。只さえ、猫の手を借りたい時じゃないか。」
アルベルトの甥、ルドルフ・ブラウンが答えた。
「馬鹿者!勝手に、ビリーを呼ぶな。最近、ビリーのかみさんが、旦那はどこにいるんだと、あちこちに聞いて回っているんだぞ。うちの存在がバレたらどうするんだ。妊娠中じゃ、精神的に不安定になるのも分かる。だから、ビリーには、産休を取らせたんだ。」
「折角、伯父さんが、スカウトしたんじゃないか。それに、ビリーは今回の件に是非参加した言って、俺に談判したんだぞ。」
「ボスは俺だ。今回は、ビリーには用は無い!帰れ!ビリーには、子供が生まれた後に、仕事を任す。以上だ。」
ルドルフは、不満を押し隠した。
ビリーは、肩を落として帰ろうとした。
「俺が、ビリーを車まで送ります。俺からも言い聞かせますから。」
“老人”が席を立った。
「任せたぞ。」
アルベルトが声を掛けた。
アルベルトの家を出て、ビリーの車が止めてある近所のコイン・パーキングへ、ビリーと“老人”は歩いた。
「貴方が言っていた通りだ。アルベルトは、僕を殺そうとしている。今回の仕事が終わったら、きっと。」
ビリーは、“老人”の言葉によって、アルベルトに対し、疑心暗鬼になっていた。
「ビリー、用心しろよ。お前のかみさんが、お前の事を嗅ぎ回っているから、こんな事になったんだ。」
「ちゃんと、仕事があるって、妻にはまめに連絡していたのに。」
「ビリーのかみさんは、お前と同業者だ。だから、お前の行動に怪しいと勘付いてしまったんだろう。悲しい職業病だ。」
「アルベルトは、僕だけを殺せって言ったのか?」
“老人”は首を振った。
「お前と、かみさんとお腹の子供もだ。」
ビリーは絶句した。
「畜生!俺がアルベルトの誘いさえ乗らなければ、こんな事態にはならなかった。」
ビリーは泣き出しそうになった。
「大丈夫だ。ビリー、俺が付いている。亡くなったお前の親父の元相棒がな。俺の言う通りにすれば、お前達親子の命は守ってやる。」
“老人”は、ビリーの肩に手を置いた。
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それから、2日後のことであった。
この日の夜も、サラ、青戸勲、コリン、そしてデイビットが集まっていた。
サラと青戸猛が病室を出ようとした頃、ノックが聞こえた。
サラがスライド式のドアを開けると、そこにはメガネをかけ、内気そうな女性が立っていた。
「サラ・リトル・アオトさんですか?」
「はい、そうです。どなた?」
「私、シンディ・チャーと申します。あの、私、御主人が撃たれた現場にいた者です。」