前回 、 目次 、 登場人物

ブライアン・トンプソンは、元シークレットサービスとて長年勤務して民間の警備会社に転職後は、世界を股に駆けるボディガードとして活躍している。



彼は、多忙のスケジュールの合間を縫って、年に数回青戸勲とサラに会っていた。

サラも、夫の古くからの友人を大切にしていた。


青戸勲はサラに、ブライアンとは16年前に、当時働いていたシアトルの病院で知り合ったと話していた。





実は、ブライアン・トンプソンと青戸勲は、17年前シアトルの金持ちの家で知り合っていた。

金持ちの愛人にさせられていた14歳のコリンを助けたことがきっかけで、友情を結んでいたのだ。

これは、コリンを含めて、3人だけの秘密であった。





コリンは、ブライアンとは数年に1度位しか会っていなかった。

出来れば今日会いたかったが、生憎ブライアンが見舞いに来る時間は、コリンは大事な仕事があった。




「宜しくと、伝えてね。」


「了解したわ。イサオが撃たれなければ、ブライアンと自宅のディナーを共にしていたのよ。」





朝の診察時間になり、医師と看護師がやって来た。




コリンが病室を出ようとした時、マックスとニック刑事が入って来た。

ニック刑事は、ぼさぼさの白髪頭を綺麗にカットされ、以前見た時より小ざっぱりしていた。



『思い出した。ニック刑事に見覚えがある。』

コリンは、ニック刑事を5年前に見たことを思い出した。



当時の恋人で、コリンが所属していた武器製造・密売グループのリーダーであったリチャードに、ニック刑事が接触してきたのだ。

逃亡した殺人犯が、リチャードのグループから銃を買ったことを嗅ぎ付けたからだ。



リチャードと裏取引をして、殺人犯の情報を得ると、ニック刑事は直ぐに去った。

あの頃は、裏の世界に精通した年配の刑事という印象しかなかった。


今の様に、邪悪な気配を発していなかった。




『もしかしてニック刑事も、俺のことを覚えている可能性があるな。』コリンは気を引き締めた。



「失礼。診察中でしたか。タイミングが悪かったですね。後で、またお伺いします。」

マックスが言った。




「いえ、こちらは終わりです。おや、刑事さん。顔色が悪いですね。どこか具合が悪いのですか?」




医師が刑事ニックに尋ねた。




「いえ、元からです。この間の健診では、どこも異常無しでした。」


ニックは、表情を変えることもなく答えた。




『初めて病室で会った時も、この刑事の顔色は青白かったな。』とコリンは思った。





どんな時でもクールなサラが、珍しく叫んだ。



「先生!イサオの手が動きました!」



皆、一斉にイサオを見た。


医師が慌てて、イサオの元へ戻った。




「イサオ!もう一度動かして!」




サラが何度も言っても、イサオが再び手を動かすことは無かった。



「指が微かに動いたんです。」

サラは興奮して説明した。



「少しずつ、快方に向かっていますね。」

医師が微笑んだ。




コリンも嬉しかった。

僅かであるが、光明が見えた。



コリンは刑事達からの簡単な聴取を済ますと、病室を後にした。




廊下を歩いていると、ナースセンターから会話か聞き漏れた。




「青戸さんの病室に入った白髪頭の刑事って、確か『化け物』って呼ばれていた人よね。」



「ああ、覚えてる。あの事件でしょ。新聞にもデカデカと載ってたね。」



『ニック刑事が化け物?』

看護師同志の会話を聞いてしまい、コリンはぎょっとした。

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