松井節子とコリンが、嶋村涼一議員の事務所の近くのコーヒーショップへ入り、事務所の様子を伺った。
事務所は、人の出入りが激しかった。
はたから見ると、党首選挙の準備で忙しくしている様に見えた。
松井節子は、その中で顔見知りの男性を見付けると、コーヒーショップの外へ出て、その男性を捕まえた。
男性は、初めは口を濁したが、松井節子が他には絶対漏らさないと誓ったので、ようやく口を開いた。
高梁真弓からの電話の通り、事務所では嶋村和一の行方を探していた。
瀕死の重傷を負った君津川を病院に運んだのは嶋村和一なのだが、それからの足取りがぷっつり切れていた。
裏世界で仲介人として名が知れている君津川と嶋村和一が友人関係にあることを、何時マスコミが嗅ぎ付けるか分からないので、その対策にも追われていた。
方々手を尽くしても見付からず、事務所は困り果てていた。
後は、君津川の回復を待つだけの状態であった。
男性はこれから病院へ行き、君津川の様子を見に行くと言って去った。
松井節子は、コリンの待つコーヒーショップへ戻った。
コリンは、店内から事務所の様子を見ていた。
多くの人が出入りしているが、皆深刻な顔付きをして、事の重大さを物語っていた。
少しして、松井節子の携帯が鳴った。
見慣れない番号であったが出ると、小笠原文武が過去に働いていた美術商の声が聞こえた。
彼は贋作を扱い、裏社会と縁のある人物であった。
FBIと警察は、小笠原文武と彼との関係を知り、マークしていた。
その美術商から、今夜どうしても会って話したいと言ってきた。
松井節子が理由を聞くと、今夜FBIと警察がマークを解除して、何処かへ出動したので、その隙に話しておきたいことがあるのだと言う。
コリンは、FBIと警察が動いたことに注目した。
何かが動いている。
その通りで、警察は動いていた。
匿名の電話で、君津川を病院へ運んだのは嶋村和一であり、その後行方をくらましているとの情報がもたらされた。
警察は、兄の嶋村涼一議員へ問い合わせをしたが否定された。
だが、内偵調査で匿名の電話が正しいことが証明された。
警察は、裏の仲介人・君津川が重態になった事件を追っていて、どうしても嶋村和一の証言が欲しかった。
警察上層部が内密に調べると説得したので、嶋村涼一議員は渋々認めた。
こうして、警察は嶋村和一の探索を開始した。
その為、美術商のマークしていた刑事達も、嶋村和一を探す方へ回されたのだ。
松井節子とコリンは、美術商が経営する上野の画材屋へ向かった。
同じ頃、コリンが潜伏していると思われるビジネスホテルの張り込みしていた刑事も、急遽嶋村和一の捜査へ移ることになっていた。
代わりにFBIの捜査官が配備されることになった。
アメリカから来ているキャロライン・マクマーン捜査官とジョン・ヘムスリー捜査官では、コリンに顔を知られており、その代わりにCIAの日系情報部員が担当することになった。
交代でゴタゴタしている時、客室係りに化けた影無き男は、コリンが借りている部屋の前にいた。
影無き男は、コリンはただの小僧と見下していた。
コリンが自分に立ち向かわない限り、自分から殺そうと思わず、放っておいた。
影無き男にとって、CIAとFBI、スパイナーのデイビット、それに国会議員・嶋村涼一を相手にしている方が楽しかったからだ。
今回、コリンの部屋の前に来たのは、コリンを捕縛するつもりでいた。
FBIによって秘密裏にGPSを右肩に埋め込まれたコリンを使ってて、連中を混乱させようとしていた。
FBIとCIAがコリンを利用して、自分を捜そうとしているのは、十分に知っていた。
それを利用しようというのだ。
連中を倒した後は、じっくりと小僧を可愛がってやる。
見下しながらも、2度も自分の手から逃れていたコリンを、影無き男は苦々しく思っていた。
盗んだマスターキーを使い、部屋へ入った。
TVは付いているが、全く人の気配がしない。
影無き男は、部屋中を見渡した。
枕の下に、四角い黒い物体を見付けた。
GPSである。
「小僧、なかなかやるじゃないか。」
影無き男は、GPSを盗って部屋から消えた。