コリンは衝撃で床に倒れた。
松井節子もつられて倒れた。
コリンの右手を覆っているギブスが半分割れ、銃身が出てきた。
松井節子と嶋村和一は、驚いた。
ギブスの中に銃を仕込んでいたのだ。
おじさんに依頼したのは、これであった。
以前、リチャードがこれと同じものを製作していたのを、コリンは覚えていたのだ。
影無き男は、腹を押えた。
血が腹から溢れ出てきた。
「小僧、小細工をしやがって!」
影無き男は小屋から逃げ出した。
コリンと松井節子は立ち上がった。
コリンは松井節子に、嶋村和一と一緒にここにるように言った。
松井節子は従った。
コリンは小屋を出て、影無き男を追った。
右手首の痛みを堪えて。
松井節子は、震えている嶋村和一に聞いた。
「貴方、何か持ってない?」
嶋村和一は震えながらも、棚を指さした。
棚のドアを開けると、猟銃があった。
弾は別の棚に保管してあった。
松井節子は、急いで弾を込めると、小屋を出た。
山中では、コリンが影無き男を捜していた。
木の陰に隠れた、影無き男は上着とワイシャツを脱ぐと、ワイシャツで腹をきつく巻いて止血した。
「くっそ!止まらない。」
急所に当たり、ワイシャツから血が滲んできた。
もっときつく、ワイシャツを締めた。
その上から再び、上着を着た。
このままでは、俺が持たない。
『残念だが、短期決戦であの小僧を倒さねば。』
影無き男は、あたりをキョロキョロしながら山の中を進んだ。
コリンは警戒しながらも、山の中を歩いていた。
ふと、風を感じた。
影無き男は木の上でコリンを待ち構えていて、コリンが真下に来たので飛び降りたのだ。
コリンは不意を付かれ、地面に倒された。
影無き男は、コリンの右手を踏ん付けた。
折れている右手首に、激しい痛みを覚えた。
コリンは動きを止められてしまった。
影無き男は、コリンを至近距離から右肩、腹を撃った。
「急所ははずしてある。この次は、心臓の脇を撃つ。そこも急所じゃないが、たっぷりと血が出る。じっくりと苦しんで死ね。」
影無き男が冷たい笑顔を見せた。
コリンは苦痛に耐え、体を動かそうとした。
山小屋から松井節子が走ってきた。
コリンが倒れた所を目撃した。
『危ない!』
松井節子は猟銃を構えた。
遠方から、松井節子が猟銃を構えたのが見え、影無き男は銃を彼女に向けた。
その瞬間、コリンは両足で影無き男の腹を蹴った。
影無き男に激痛が走った。
銃を持ったまま、後ろへ仰け反った。
その瞬間、コリンは自由になった。
コリンは影無き男に飛び掛った。
松井節子は猟銃の引き金を引こうとしたが、地面で取っ組み合いをしているの為、標準を合わせられなかった。
コリンの左手は、影無き男が銃を持っている右手をきつく掴んだ。
影無き男は、上着の左手の袖からナイフを出して、勢いよくコリンの首を掻き切ろうとした。
だが、ナイフはコリンのネックレスに当たってしまい、首の先を掠めただけだった。
「畜生!」
影無き男は叫んだ。
どうしてこいつの時だけ失敗するのか。
「この野郎!」
コリンは頭突きをすると、ギブスをしている右手で、影無き男の左手を掴んだ。
影無き男は抵抗し、2人は何度も何度も回転し、闇の方へ消えた。
やがて、1発の銃声が聞こえた。
松井節子は慌てて2人の元へ駆け寄った。
2人は動いていなかった。
少し経ち、1人の男がゆっくりと起き上がった。
コリンだった。
右手のギブスに仕込んであった銃で、影無き男の心臓を撃ち抜いたのだ。
コリンは、目を見開き仰向けのまま影無き男を見て、その死を確認した。
『リチャード、みんな、小笠原さん、仇は討ち取った。』
様々な思いが頭を過ぎ去った。
頭が空っぽになった。
松井節子が側に寄った。
コリンと松井節子は抱き合った。
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきた。