カリフォリニア州に戻ったコリンは、ロスにいる両親の元へは行かなかったし、日本に行く事も内緒にした。
母の生まれ育った国へ行くというよりは、影無き男を追いかけるためであったからだ。
カナダへ行く時、両親には長い出張に行くと伝えていた。
最後の別れは済んでいた。
幸い、CIAから貰ったGPSを誤作動させる機械は、今も変わらす作動している。
外にいても、FBIの視線を感じない。
ここに戻った事は、まだばれていない様だ。
これなら安心して行動できる。
早速コリンは、裏社会の知人と接触した。
知人はコリンがリチャードと共に殺されたと思っていたので、コリンが元気でいることに大いに喜んだ。
コリンは知人に偽造パスポートを依頼し、日本行きの準備を始めた。
インターネットカフェには毎日訪れ、松井節子とメールのやり取りをした。
コリンが日本に来ると知り、松井節子は歓迎した。
何時でも待っていると。
捜査が進まないことに、松井節子は苛立ちを感じており、自力で婚約者・小笠原文武を殺した犯人を見付ける気でいる。
そんなある日、ハッカーのジェローム・ゲイから、メールが突然届いた。
コリン
驚かしてすまない。
あれから、叔母さんは無事に家に戻り、僕はCIAに保護された。
君が助けてくれたから、僕は自分と仲間の無実を証明できた。
心から感謝するよ。
本当は会って礼を言いたいけど、出来ないんだ。
僕が保護された後に、CIAエージェントが君に接触したと知り、心が痛んだよ。
何も出来なかった僕を、許して欲しい。
カナダで、影無き男と戦った君が、行方不明と知って、随分心配した。
でも、今日君のメールを見付けて、とてもハッピーになったよ。
命を助けてくれたお礼に、リチャード達が埋葬されている場所を探し当てたので、教えるよ。
あの忌まわしい事件の後、リチャード達はニューヨーク州の共同墓地に埋葬されんだ。
現在、CIAとFBIが組んで、影無き男を追っているけど、奴は全く姿を消してしまった。
僕が君に接触したことをCIAの連中にばれたら大変だから、このメールを送ったら、僕のアドレスは削除する。
幸運を祈るよ。
ジェローム
ジェロームからのメールを、コリンは何度も読み返した。
いてもたってもいられなかった。
インターネットカフェを出ると、長距離バスを乗り継ぎ、ニューヨーク州とカナダとの国境近くの共同墓地へ行った。
コリン達が襲撃された場所の近くにあった。
共同墓地は人気の無い静かな場所にあり、それ程広い墓地ではなかったので、リチャードと仲間の墓を直ぐに見付ける事が出来た。
まず、仲間に花を手向けた。
ハッカーのフレッドには、花束を2つ供えた。
ジェロームの分であった。
皆との思い出が蘇る。
一番最後に、リチャードの墓へ花を供えると、その場に跪き、長時間いた。
6年間の濃密な時間が頭を過ぎり、コリンは涙が溢れ出た。
『リチャード、皆、きっと影無き男を討ち取ってみせる。見守って欲しい。』
共同墓地を離れる際、管理人がやって来た。
「リチャードという男の墓に、お参りする人が現れたら、これを渡してくれと頼まれたんだ。」
一枚の封筒を渡された。
開けてみると、ニューヨーク市の弁護士・アブラハム・バークレイの名刺が入っていた。
見覚えのある名前であった。
リチャードが雇った弁護士の1人で、コリンは何度か会っていた。
コリンは、近くで公衆電話を見付けると、名刺に書かれてある電話番号をかけた。
秘書を通じて、電話に出た弁護士は、コリンにどうしても会いたいと言って来た。
コリンは、明日会うことにした。
日本へ発つ前に、全てを片付けたかった。
翌朝、コリンはニューヨーク市のダウンダウンにある古ぼけたビルに着いた。
入り口にいた警備員に、自分の名前を言うと、最上階だと言って、エレベーターまで案内してくれた。
エレベーターが最上階に着いてドアが開くと、古びた外見とは打って変わって、大理石で覆われたフロアが目の前に広がった。
最高級品の家具が置かれ、コリンは居心地が悪かった。
コリンを見た秘書は、直ぐにアブラハム・バークレイ弁護士のオフィスへ案内してくれた。
バークレイ弁護士は、にこやかにコリンを迎えた。
本来なら、コリンに直接連絡するのが筋だが、FBIの目があり、この様な回りくどい手を使ったのだと釈明した。
「他の人間が、先に墓参りした場合は、どうするつもりだったの?」
「ハハハ。問題ないよ。管理人には、君の特徴を教えてあるからね。彼も、裏社会の人間だから、信用したんだ。」
そして、バークレイ弁護士は、本題に入った。
リチャードから、『自分に万が一のことがあったら、財産をコリン・マイケルズに譲る。』という遺言状を預かっているというのだ。
コリンは初耳であった。
呆気にとられているコリンに、バークレイ弁護士は遺言状を見せた。
コリンは、更に目を丸くした。
遺産が、250万ドル(約2億700万円)あったからだ。