デイビットと朝まで話したせいか、それからコリンは夜はどうにか眠れるようになった。
影無き男の夢を見るが、飛び起きることは無くなっていた。
デイビットが、カナダの新聞を持ってきた。
記事の中では、家が全焼し、4人の男性が死んだとしか書いてなかった。
「あの家で、麻薬を打たれた少年を助けたんだ。彼のことは書いてないけど、どうなったの?」
「彼は、CIAに保護された。」
「良かった。俺の方は、又FBIに殺されたんだね。」
笑ったコリンに向かって、デイビットが言った。
「CIAもさ。CIAはFBIと組んで、影無き男を追跡している。奴の先は短い。俺達の出番はない。俺は諦めたよ。お前も諦めろ。」
この日、コリンは酷く落ち込んでしまい、高熱を出してしまった。
1週間もコリンの熱は下がらず、デイビットは付きっ切りで看病をした。
コリンは、デイビットの優しさに舌を巻いた。
裏社会で見かけた時は、尖ったナイフの様に、危険で冷たい印象を持っていた。
ここでのデイビットは、180度違う。
1週間が過ぎて、ようやく熱が下がり始めた。
順調に回復し、右足の痛みも少しずつ減り、何とか自力で歩けるようになった。
コリンは、ある日デイビットに聞いた。
「どうして、俺を助けたの?」
「怪我人を放っておくことはできなかったんだ。お前は、友人のリチャードの恋人でもあったしな。」
デイビットは、冷静を装って答えた。
「優しいんだね。有難う。」
「人の世話が好きなだけだ。礼なんていらない。」
コリンの一言に、デイビットは照れながら、氷枕を取り替えた。
CIAが裏社会の人間を利用して、影無き男を抹殺を企んでいるとの情報がデイビットに入ったのは、襲撃の前日であった。
デイビットは、急いでカナダへ向かった。
襲撃者の中に、コリンがいたことも気掛かりであった。
コリンは奴に倒される。
嫌な予感がした。
危うく、その通りになる所であった。
現場に着き、影無き男を捜していると、家が爆発したのだ。
その時、2人が爆風で吹き飛んだのを目撃した。
コリンが、その中にいたのを見た。
気になったが、デイビットには影無き男を倒さねばならなかった。
しかし、今回は邪魔が入り、仕損じた。
次は必ず倒す。
戦いを終え、アジトでコリンを見付けた時は安堵した。
助けなければと思い、カナダから自宅のあるアラスカ州まで連れて来た。
デイビットは、1週間コリンを面倒見て、益々愛おしいと思えた。
このまま熱が下がらす、足も良くならなければ良いのにとさえ思った。
『この男は、俺に惚れている。』
コリンも、薄々デイビットの想いを感じていた。
しかし、コリンの心にはリチャードがいた。
彼しかいなかった。
ある日の早朝、デイビットはコリンの様子を見た。
コリンはまだ寝ていた。
デイビットは浴室へ行くと、シャワーを捻った。
すぐさま、コリンは起き出した。
寝た振りをしていたのだ。
熱を押して、コリンは静かに書斎に行った。
コリンは殆ど横になったいたものの、この1週間でデイビット家の間取りを把握していた。
書斎には、パソコンが置いてあり、その周りは書類が積まれていた。
コリンは、デイビットも影無き男を追っている事は知っている。
口では、『諦めた。』と言ったが、きっとあの男を捜している筈だ。
リチャードから、デイビットは一流の腕を持つスナイパーと聞いている。
その男が、簡単に諦めるはずがない。
デイビットは、毎朝10分程シャワーを浴びる。
その隙に、書類を盗み見ようと決めたのだ。
影無き男の情報が欲しかった。
書類を探っていく内に、コリンは意欲が湧いてくるのを感じた。
書類の中から、華やかな女性の写真が見付かった。
コリンの背中に電気が走った。
小笠原文武と飲んでいた時のことを、思い出した。
彼が、携帯の中に収められていた1枚の写真を見せてくれた。
婚約者の松井節子だと、教えてくれた。
その写真の人と同一人物であった。
他の書類を見た。
松井節子のことや、彼女の実家の高藤家に関する情報が書かれてあった。
奴の次の標的は、彼女なのか。
シャワーが止まった。
今からだと、主寝室へ行くとデイビットに見付かってしまう。
コリンは音をたてずに、急いで台所へ行って、水を飲んだ。
デイビットが、浴室から出てきた。
「おはよう。起きて大丈夫か。」
「ああ、今日は気分が良くなってね。熱が下がったようだ。君のお陰だよ。感謝するよ。」
コリンは、微笑んだ。