夜が明けた。
救急車や警察のサイレンが、遠くに聞こえる。
林の中でコリンは、人の気配が無いことを確認すると、体を起こした。
右足に激しい痛みが走った。
声が出そうになったが、こらえた。
木に掴まって、辛うじて立つことが出来た。
『良かった。骨は折れていない。』
木々に寄りかかりながら、アジトへ向かった。
アジトにようやく戻ったコリンは、台所へ行き、冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出して、がぶ飲みした。
足音が聞こえてきた。
生き残った仲間がいるのだろうか。
しかし、迷彩服を着た金髪の男が台所へやって来たので、コリンは恐怖を感じた。
2メートル近い身長だったので、余計怖く思えた。
金髪の男の左腕には包帯が巻かれていた。
コリンは咄嗟に、M92ベレッタFSを取り出した。
「落ち着くんだ。」
金髪の男がそう言うや否や、素早くコリンの手からM92ベレッタFSを取り上げた。
恐怖にかられたコリンは、台所にあった包丁を掴むと、男に振り上げた。
金髪の男は右手だけで、いとも簡単にコリンを床に組み伏せた。
背中を激しく強打したが、コリンは必死に抵抗した。
金髪の男はコリンに馬乗りになり、両手で首を掴んだ。
「大人しく従わないと、お前の首をへし折る。分かったか。」
抑制の取れた男の声に、コリンはただ頷くしかなかった。
「言う通りにしてれば、お前を無事に家に送り届けやるから、安心しろ。」
金髪の男は優しく言うと、両手をコリンから離し、コリンを立ち上がらせた。
右足を痛めていたコリンは、苦痛で顔をしかめた。
すると、金髪の男はコリンを担ぎ上げた。
驚いたコリンだったが、抵抗しなかった。
金髪の男は、アジトの裏に止めてあった車の助手席にコリンを座らせると、運転席に座り、車を走らせた。
「これから何処へ連れて行く?」
「俺の隠れ家だ。安全な場所さ。」
コリンは運転している男を見た。
この男は、リチャードとは顔なじみであった。
リチャードに、しばしば武器調達を依頼していた。
自分が初めて会ったのは、6年前。
それから数回会っているものの、挨拶程度しか会話はしていなかった。
スナイパーをしていると、リチャードから聞かされていた。
少し間をおいて、コリンが口を開いた。
「確か、名前はデイビットと言うんだよね。間違ったら済まない。」
「そうだ。デイビットと言うんだ。」
金髪の男は、さっきとは打って変わって優しい目付きでコリンをちらっと見た。
「大丈夫だよ、コリン。俺は君の味方だよ。影無き男には、俺も恨みがある。」
「それならどうして、俺達と一緒にならなかったんだ?」
「CIAには嫌な思い出しかないから、組みたくなかったんだよ。」
コリンの表情が固まった。
「CIA?!」
「トビーがCIA職員だったんだ。マックスとスキンヘッドの男も騙されていたんだ。CIAは裏社会の人間を使って、影無き男を消そうとしたんだ。」
コリンは、すっかりトビーを信用してしまった、自分の愚かさを呪った。
利用された挙句、返り討ちに遭い、影無き男を逃がしてしまうとは。
何て愚かな人間だと、心の中で自分を責めた。
「顔が真っ青だぞ。」
「当たり前だ。操られていたことに、ようやく気が付いたんだからな。くそっ!!」
コリンは助手席のドアを叩いた。
「気にするな。CIAが相手なんだ。君が悪い訳じゃない。」
怒りで興奮したせいで、コリンの右足は更に痛みを増した。