ジェロームの一言で、コリンは右肩を触った。
しこりは無かった。
FBIの施設で、銃弾の破片があるからと、摘出手術を受けた。
実は、GPSを埋め込んでいたとは。
四六時中FBIの目を感じていたのは、そのせいだったのか。
コリンは、FBIに怒りを感じた。
コリンは、ジェロームに尋ねた。
「どうして、お前は軍のコンピューターに不法侵入したんだよ。」
「僕達はやっていない。」
ジェロームは、きっぱりと答えた。
「僕達は、ハッカー仲間のフレッドの仇をとろうとしていたんだ。」
フレッドは、リチャードのグループにいたハッカーであった。
彼も、リチャードと共に男に殺されていた。
それも、裏社会で疫病神扱いされている“影無き男”と言うのである。
ハッカー達は、コリンより一足先に、犯人を突き止め、影無き男を追っていた。
しかし、ある日軍のコンピューターに侵入した罪を着せられてしまい、仲間は捕まり、一人残ったジェロームが当局の目から逃れていた。
「ロスへ行ったんだけど、従兄弟が俺をサツに売ろうとしたんで、叔母さんにここまで送って貰ったんだ。」
叔母・カミーラは、ジェロームの手を握った。
「この子のことは、無実だと信じているの。自分は仲間の疑いを晴らすんだと言ってね。私も警察にきちんと言うべきだと思ったんだけどね。この子には、この子のやり方があるもの。」
「影無き男が、お前達に罪を着せた犯人なのか。」
「そうだと思う。でも、奴には、俺達を騙すほどの知識はない。きっと、協力者がいるはずだ。それも、腕利きのハッカーだ。大体の目星はついているんだ。そいつは、」
コリンは、シッと人差し指を口の前に立てて、ジェロームを黙らせると、部屋の奥へ行くように、手で指示した。
廊下から、ゆっくりと足音が近づいてきた。
ジェロームのいる202号室の前で止まった。
鍵穴に針金を入れて、ドアを開けようをしていた。
コリンは、素早くドアの横に張り付き、ジェロームと叔母は奥の寝室へ逃げた。
ドアが開いた。
男が身を半分入った所で、コリンは思いっきりドアを閉めた。
「うっ!」
男は、持っていたワルサーP99を落としそうになり、1発床に向けて引き金を引いてしまった。
奥の部屋にいた、ジェロームの叔母が悲鳴を上げた。
すかさずコリンは、男の右手を蹴り上げた。
銃は男の手から離れ、天井へぶつかると、床に転がった。
コリンは男のあごを右肘でアッパーカットした。
男はよろけたが、直ぐに体制を建て直し、コリンに向かってきた。
男の右腕を、左手でブロックし、右手で男の目を突いた。
「ジェローム!逃げろ!!」
コリンが、男がひるんだ隙に叫んだ。
ジェロームは、寝室の窓を開け、そこから叔母を連れて部屋から逃げた。
銃声を聞いて、外が騒がしくなった。
急いで、男を倒さなければならない。
コリンは、男の股間を蹴り上げた。
男がうずくまった。
更に、男の頭を蹴ると、男は意識を失った。
コリンは、慌ててワルサーP99を拾って外へ出た。
下には数名が出てきて様子を見ていたが、まだ2階には人がいない。
サイレンの音が聞こえてきた。
非常口から、コリンはモーテルを出ると、冷静を装い、歩いた。
パトカーがこちらへ向かって来た。
通り過ぎるのをやり過ごすと、コリンはワルサーP99を近くのゴミ箱へ捨てた。
30分後、アパートへ無事に着いた。
iPhoneが鳴った。
ジェロームからだろうか。
このiPhoneはFBIから貰ったものなので、一瞬出るべきか悩んだ。
だが、画面を見ると、母・美賀子からであった。
コリンが出ると、母の泣きそうな声が聞こえた。
「こんな夜遅くに御免なさい。困ったことが起きたの。さっき、友人宅から戻ってきたら、パソコンが盗まれたのよ。他のは手が付けられていないの。盗まれたのは、パソコンだけよ。気味が悪いわ。さっき、警察に連絡したから。もう、大丈夫かと思うけど。」
「今から行くよ。安心して。」
コリンは、レンタカーを借りて、母のもとへ急行した。
コリンの勘が働いた。
ジェロームの件といい、母の件といい、これはどこかで繋がっているのではないかと。