直ぐにコリンは、ジェロームがメモに記した住所へ向かった。
場所は、歩いて30分程の距離にあるモーテルであった。
既に日が落ち、あたりは殆ど人気がなかった。
寂れたモーテルの2階へ上がると、202号室のドアをノックした。
ジェロームがドアを開け、コリンを中に入れた。
部屋には、1人の中年女性がいた。
叔母のカミーラと名乗り、コリンと握手した。
「ロスの私を頼って、甥が訪ねてきたのだけど、息子が煙たがってね。それで、ここへ連れてきたの。」
「よく俺のことが分かったな。」
コリンが、ジェロームに尋ねた。
「FBIにアクセスしたんだよ。そしたら、お前が生きているって知ったんだ。」
ジェロームはあっさり答えた。
「でも、俺はFBIに色々と喋ったんだぞ。」
「向こうはそう思っていないよ。あんたが喋ったのは小物だけ。決して、連中の知りたいことは言わなかった。連中は、あんたを囮にして、大物を釣る気なんだ。」
「大物って。」
「影無き男。俺も追っている。」
コリンは、ジェロームの言葉に耳を疑った。
自分が追っているのは、蛇の様な目をした男である。
ジェロームの言った影無き男とは、別人だと思っていたからだ。
「影無き男って、凄腕の殺し屋だけど、用が済んだら、あらゆる者を殺し、時には依頼人すらも殺すという、厄介な男のことか。」
「そうだよ。知らなかったのかい?!」
「俺達を撃ったのは、その男じゃなかった。赤いシャツを着た蛇の様な目をした男だった。裏社会が噂している影無き男は、赤毛の若者だった筈だ。」
「そうなのかい!でもFBIは、影無き男だって思ってるよ。」
コリンは動転した。
追っている男は、裏社会でも疫病神扱いされている。
その男が、自分の所属していたリチャードのグループに接触した覚えは無かった。
「どうして、FBIが追っているんだ。」
「アイツ、FBIが捕まえた麻薬王を殺したんだ。護衛していたFBIも殺してな。確か、2年前の事だった。その時に、アイツに武器を売ったエドワードも殺してる。知っているだろう。」
コリンは、エドワードの名前は良く覚えていた。
リチャードの知り合いで、一匹狼で、裏の人間に武器を製造し、販売していた男であった。
腕は、超一流であった。
エドワードの死によって、裏社会にいる多くの人間が仕事に支障をきたし、中には引退をした者がいたと聞く。
「世界一の腕を持つエドワードが殺した後、影無き男が武器を依頼するのが、リチャードの所だとFBIは睨んで、6ヶ月間見張っていたんだよ。リチャードの所も、腕は一流だからな。その通りになったが、あの男を逃してしまった。」
コリンは、再び衝撃を受けた。
FBIが俺達を張っていたなんて、思いもしなかった。
これで、蛇の様な目をした男が、自分に止めを刺さずに去ったのかが分かった。
FBIから逃れる為だったと。
そして、自分も一命を取り留めたのも、FBIが直ぐにやって来たからなのだとも。
撃たれた時に、聞いていた車の音はFBIのものだったのだ。
「今度は、俺を使ってあの男を捕まえようとの算段か。」
コリンは、まだ整理がついていなかった。
最後の顧客は、陽気なハワイの男であった。
その前は、イタリア人であった。
他の顧客のことも思い出してみたが、皆が噂している、影無き男と結びつかなかった。
「本当は、お前を頼りたくなかったんだ。」
ジェロームが申し訳なさそうに言った。
「どうして。」
「だって、お前の右肩にはGPSが埋め込まれているんだ。」