サンディエゴに戻って2週間後、コリンは仕事帰りに、小笠原文武を街角で見かけた。
彼も気付いた様で、声を掛けてくれた。
ふと、視線に気付いたが、人が多い路上なので、それ程気に留めなかった。
挨拶だけのはずが盛り上がり、小笠原の宿泊しているホテルで飲もうという話になった。
コリンは、底なしに酒に強い。
小笠原も強かった。
広めのシングル部屋に、ワインやビールの空き瓶が7本転がっている。
小笠原の話に、コリンは引き込まれた。
学生時代にインドへ放浪していたときの話や、卒業後はヨーロッパで働いていた体験、フランスで出会った婚約者・松井節子のこと、そして日本での話を語ってくれた。
コリンは、まるで子供の頃に読んだ冒険小説を聞くようであった。
小笠原は話し上手の上に、聞き上手でもあった。
コリンも色々な話をした。
バイセクシャルで、中学時代から始まった恋愛経験を明け透けに語った。
リチャードのことまで話してしまった。
会って2回目なのに、小笠原には何でも話せる気がした。
小笠原は、コリンの首を見て言った。
「このネックレスはリチャードと言う人から貰ったのかい?何時も、とても大事そうに触っているね。」
コリンはドキッとした。
「そうなんだ。とても大切な人だった。事故で亡くなって、とても寂しいんだ・・・。」
コリンは涙ぐんだ。
小笠原は優しく背中を撫でた。
暫くして、コリンが落ち着くと、小笠原は別の話題に切り替えた。
朝まで語り合ってしまった。
帰り際、小笠原とメール交換して別れた。
疲れよりも、爽快感が残った。
その日も仕事をしたが、苦ではなかったし、その日以来悪夢にうなされることが少なくなった。
目の下の隈も薄くなっていた。
「小笠原文武は、不思議な人だ。」
コリンはそう思った。
今迄、裏社会に魅力を感じていたが、この平穏な世界も良いと思うようになっていた。