両親との電話の後、コリンの状態はみるみる回復へ向かった。
年明けに、右肩に弾の小さい破片が発見されて再手術となったが、翌日には右腕を思いっきり回せるまでに快復した。
リハビリが開始され、服も病人用から囚人用のものに変わり、取り調べも病室ではなく別室で行われるようになった。
コリンは初めて検事と対面し、素直な態度を見せた。
数回面接した検事は、コリンに好印象を持った。
そのお陰か、コリンは不起訴処分になったことを、後日知らされた。
釈放が決まり、FBI捜査官はコリンが裏社会に関してかなりの証言をしたので、証人保護プログラムの申請を勧めたが、コリンは断った。
家族に、火の粉が降りかかるのを恐れたからである。
やられるのは、自分一人で良い。
それに、証人保護プログラムを受けたら、自由に動けなくなるのが嫌だった。
ほとぼりが冷めたら、あの赤いシャツを着た蛇の様な目をした男を探さなければならない。
不起訴といっても、暫くはFBIの監視下に置かれることは分かっていた。
釈放の日に、iPhoneとMacBookを支給されたからだ。
それも、コリンが撃たれるまで使っていたのと同じ型である。
FBIは、コリンの好みを掴んでいた。
反面、嬉しいことがあった。
それは、釈放時にリチャードがくれたネックレスが返って来たからだ。
ネックレスを付け、コリンはその足でシアトルの実家へ向かおうとした。
それを察してか、ヘムスリー捜査官から、実家までの飛行機の片道切符を渡された。
切符を見て、ここがバージニア州だと分かった。
「何かあったら、遠慮なく連絡してくれよ。」
ヘムスリー捜査官が言ったので、コリンは頷いたが、内心はもう二度会うものかと思っていた。
建物を出ると、春の匂いがした。
コリンが撃たれてから、4ヶ月が経つ。
初めは一人で空港へ行くと言ったが、半ば強引にマクマーン捜査官が運転する車に乗せられ、コリンは空港まで送られた。
空港に着き、コリンはヘムスリー捜査官とマクマーン捜査官に案内され、搭乗口まで歩く途中、撃たれた時に感じた邪悪な気配を感じて、あたりを見た。
右隣にあるバーで、テンガロン・ハットをかぶった背広姿の大柄な男が、ビールを飲んでいる風景が目に入っただけで、それらしき人物はいなかった。
「何かあったの?」
「いえ、久しぶりの外出なので、戸惑ってしまってね。」
マクマーン捜査官の問いに、コリンは肩をすくめて答え、2人の捜査官に握手をして別れた。
『俺は、年を取ったな。』
男は、バーでビールを飲みながら、己の不手際を責めた。
黒髪を金髪に染め、体型も15キロ近く増やし、身長も10センチ高く見せ、カラーコンタクトを変えて目は緑色にしてある。
誰の目にも、あの赤いシャツの男とは別人に見える。
男は、去年のことを思い返していた。
あの時、邪魔者は全て消すつもりでいた。
母屋の連中を片付けて、倉庫にいた小僧を消すはずだった。
なのにあの小僧は、一歩先に母屋へ行っていた。
音は立てていないはずなのに、何故だ。
前の俺なら、もっと手際よく片付けていたはずだ。
男にとって、初めての失敗であった。
釈放の日を知り、男はコリンの殺害を考えていたが、FBI捜査官が側にいたので中止した。
『まあ、いいさ。あの小僧は、俺のことは言ってないので、安心して行動できる。小僧が俺の前に現れたら、消すだけだ。急ぐ事はない。』
ビールを飲み干すと、男は料金を払って席を立ち、ノース・カロライナ州・シャーロット行きの飛行機が待つ搭乗口へと歩いて行った。