目次

コリン・マイケルズが寝付けないことに見かねた医師がやって来て、睡眠薬を処方した。

睡眠薬を飲んで、ようやくコリンは眠りについた。


早朝、看護師がやってきて、厚いカーテンを開いた。

コリンはカーテンの音で目を覚ました。

日光を見るのは、1ヶ月振りであった。

鉄格子付きの曇りガラスの窓なので、差し込む日の光が弱くても、とても眩しく美しく感じられた。

コリンは、FBIに協力した振りを信じて貰ったのだと思った。


しかし、現実は違った。

FBIはコリンのことを、信用していなかった。

特に、コリンが赤いシャツを着た男を知らない振りをしたことに注目していた。

FBIは既に、この男がリチャード達を殺し、コリンを殺害未遂したことを掴んでいたのだ。

近くのガソリンスタンドの防犯カメラに、夜中にアジトへ向かう一台の車と運転手が映っており、分析の結果、彼が犯人だと断定されたのだ。


医師は脳震盪により記憶が飛んでいる可能性があると言うが、キャロライン・マクマーン捜査官は否定的であった。

「この子は、肝心なことは隠している。」

上司も、マクマーン捜査官と同じ考えであった。

マクマーン捜査官は、もっと厳しい取調べを提言したが却下された。

彼はコリンに飴を与え、泳がせて赤いシャツの男を捕らえようと計画していた。

「あいつは、きっと仲間の敵を取ろうとする筈さ。裏社会のルートを使ってでも、赤いシャツの男を探すはずだよ。見つけた瞬間、我々が男を捕らえればいいのさ。」


飴の一つが、与えられることになった。

数日後の取調べが終わる頃に、ジョン・ヘムスリー捜査官から明日家族に連絡が取れることを告げたのだ。

コリンは、ベットの上で踊りそうになった。

更に新聞を渡して、捜査官達は退室した。


新聞を読むと、アジトのあったカナダとの国境沿いの地方のもので、日付は今から1ヶ月前の古いものだった。

不思議に思って読むと、三面にアジトのことが載っていた。

火事で民家が焼け、住民4人が死亡したとの小さい記事であった。

やはり、あの時にみんな殺されていたのだと、コリンは深い絶望に襲われた。

記事には、リチャード達の名前、彼らが射殺されたこと、放火のことは書かれていなかった。

勿論、コリンの名前も見当たらない。

ただ、ストーブの不具合により、火事になった可能性があり、消防署が調査中としか載っていない。

FBIがコリンにこれを渡したのは、家族に火事で怪我を負い、連絡が取れなかったことにしろとの指示だと察した。


コリンは、次々に疑問が湧いて来た。

何故、FBIは事件を隠蔽しているのだろうか。

未だ何かを、探っている最中なのか。

その晩も、睡眠薬無しでは寝られず、何度もあの赤いシャツの男に銃を突き付けられる夢を見てしまい、あまり眠ることが出来なかった。


翌日になり、マクマーン捜査官とヘムスリー捜査官が入室し、「メリー・クリスマス。」と言って、AT&T社の携帯電話をコリンに渡した。

コリンは、きょとんとした。

「クリスマスなのか?」

「今日は、クリスマス・イブなんだ。」

ヘムスリー捜査官が教えてくれた。

そんなに経つのかと、コリンは時の早い流れに驚いた。


更に、ヘムスリー捜査官は、これから母親に電話をかけることを許可し、決してFBIの名を出さぬように釘を刺した。

今迄使っていたiPhoneが良かったが、文句を言っていられないので、コリンは頷いて実家の電話番号を押した。


3回呼び出し音が鳴り、母の美賀子が出た。

お互い、あまりの懐かしい声を聞き、涙声になった。

コリンは、母に返事が遅れたことを素直に詫びた。

火事のことを話そうかと考えていたが、母から理由を尋ねてこなかったので、あえて言わなかった。

母は、コリンがカナダで忙しく働いているものと信じきっていた。

母から引越しの話が出たので、コリンは母の決意に賛同し、引越しが手伝えるかどうか分からないと答えた。

コリンは、先が見えず、母の手助けが出来ないことに心を痛めた。


その内、父のスティーブンに替わった。

明るい声は健在だが、同じことを何度も聞き、症状が緩やかに進行していることに気付かされた。

最後に、弟のケビンへ替わった。

現在は大学生で寮生活を送っており、クリスマス休暇で帰省していた。

ケビンの元気な声が、コリンの声を明るくした。


30分も話したので、ヘムスリー捜査官は腕時計を人差し指で突く。

「又、連絡するから。最後に、メリー・クリスマス。」

と言って、電話を切った。

ヘムスリー捜査官に、携帯を返した。


コリンは堪え切れず、一筋の涙をこぼした。

慌てて、涙を手で拭った。


「今日は、これでお終いよ。ゆっくりとお休みなさい。」

初めて、マクマーン捜査官がコリンに優しい言葉をかけた。


2人が退室し、一人病室にいるコリンは動かせる範囲で体を鍛え始めた。

この1ヶ月は、ベットで寝たきりであった為、体力はかなり落ちている。

「ここから、何としても出なければ。」

飴の効果は、絶大であった。

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