翌日、弁護士の立会いの下で、FBI捜査官の取調べが再開した。
コリン・マイケルズが協力すると言ったことで、2人のFBI捜査官はサングラスをかけておらず、表情も昨日よりは険しくない。
ジョン・ヘムスリー捜査官は、小型録音機をコリンのベットの脇にある机の上に置いた。
初めに、キャロライン・マクマーン捜査官がコリンに尋問した。
「まず、貴方がいた組織について教えて。」
コリンは、自分が所属していた組織について話した。
リチャード、本名は分からないが、アメリカ人でフランスの外人傭兵部隊を皮切りに、世界各国で傭兵として戦った経歴を持ち、90年代初頭に傭兵を引退後は、その経歴を生かして、プロに武器製造・販売を始めた。
1年後、武器の製造のエキスパートであったポール、アルバートと手を組み、グループを結成した。
さらにその翌年には、ハッカーのフレッドをメンバーに加入させ、偽造の身分証明書の作成も始めた。
自分が入ったのは、今から6年前のことで、メンバーのことは名前以外は何も知らなかった。
仕事は、メンバーの下働きで、身の回りの世話や、頼まれると買い物をしたり、自動車修理工の資格を生かして、メンバーの車のメンテナスをしていたが、武器製造には関与していなかった。
FBI捜査官は、静かに聞いていた。
事実、コリンは、リチャード以外は、どこから来たのか、どういう経歴かは、全く知らされていなかった。
リチャードのことは、知っている。
彼は、本名はジャック・マンというフランス人で、母子家庭に育ち、大病を患った母親を助けるために、金になる傭兵になり、母親の病状が悪化すると傭兵を引退し、裏社会で働きながら母親の看病にあたったこと、母親が亡くなると母国を捨ててアメリカへ渡り、武器の製造に関わったことを。
このことは、決して誰にも言わないと心に決めていた。
更に、マクマーン捜査官は、グループに接触した者を聞き出した。
コリンは、自分は商談の場にいなかったと話した。
「誰かは、見ていたでしょう。」
そういうと、マクマーン捜査官は、ヘムスリー捜査官に命じ、ノートパソコンをコリン上に置いた。
「今から、男達の写真が画面に出てくるから、君が見た男がいたら、教えて欲しい。」
ヘムスリー捜査官は微笑んだ。
画面を見ると、ゆっくりと男の顔が次々と出てきた。
4枚目のブロンドでオールバックの男には見覚えがあったが、知らない振りをした。
サイボーグの様な体をした、冷たい印象の男だったなと、コリンは思い出していた。
他にも何人かは、知っていた顔があったが、無視した。
やがて、コリンは小物を2名指差した。
銀行強盗の前科がある、男達であった。
彼らは数年前、リチャードに接触した。
初めリチャードは、彼らの依頼を断っていたものの、彼らの一人が警官を兄に持っていたため、仕方なく銃を売った経緯があった。
商談の場に、リチャードといたことがあったが、傲慢で肥満の体格の上に、体から大麻の匂いが強く出ていたこともあり、コリンは悪い印象しか持っていなかった。
その後、彼らは再び銀行強盗をやり、現在も全米中を逃亡中である。
それから、何度も写真を見せられたが、コリンは知らないと言い張った。
「分かったわ。今日はこれ位にしておきましょう。」
マクマーン捜査官とヘムスリー捜査官は、コリンの病室から出た。
「良く協力したね。これから、検事と話し合いに行ってくるよ。」
弁護士は、コリンを褒めると、退室した。
情報を出したことで、待遇が僅かに改善された。
警察官が病室にやってきて、コリンの左腕に掛けられた手錠を外した。
右手は点滴の管が刺さって動かせないが、左手だけでも動かせるのは有難かった。
左手で、コリンは首を触った。
リチャードから貰った、あのネックレスが無い。
肌身離さず持っていたのに。
撃たれた時に、あそこのアジトで落としたんだ。
もう、あそこへは行けない。
コリンは、悲しくなった。
夕飯が出されても、コリンは何も手を付けなかった。
夜寝ていると、赤いシャツを着た男が銃を向けてくる夢を見て、飛び起きてしまい、その晩は殆ど眠れなかった。
翌朝、朝食もあまり食べなかったコリンのもとへ、弁護士が数枚の紙を持ってやって来た。