サングラス越しから鋭い視線を発する女から、口を開いた。
「私は、FBI捜査官のキャロライン・マクマーン。貴方を逮捕するわ。」
逮捕令状を見せ、黙秘権等の権利をコリン・マイケルズに告げた。
組織犯罪、武器密売、違法の銃取得等の幾つかの罪状を言われたが、脳震盪のせいかコリンは激しい頭痛に襲われ、全部を聞き取ることは出来なかった。
「もう、逮捕しているじゃないか。」
コリンは、か細い声で答えるのが精一杯だった。
「あら、それは逃亡の恐れがある為よ。」
マクマーン捜査官は高くきつい口調で言い返した。
「僕は、同じくFBI捜査官のジョン・ヘムスリー。君の協力如何で、検察は君の起訴をするかどうか判断するそうだ。」
隣にいる男が言った。
「君がいた組織のことや、君の所へ来た顧客のことを教えてくれないか。」
ヘムスリー捜査官は優しい口調で、コリンに迫った。
コリンは、激しい頭痛に顔をしかめた。
ヘムスリー捜査官は、医者を呼んだ。
医者は直ぐに駆けつけ、痛み止めを注射した。
「貴方のことを教えて頂戴。」
マクマーン捜査官は、サングラスをはずした。
澄みきった青い瞳が、コリンを捕らえた。
痛みが和らぐと、コリンは考える余裕が僅かに出来た。
「弁護士を呼んでくれ。」
二人の捜査官は、顔を見合わせ、マクマーン捜査官が頷き、部屋を出た。
『FBIの協力なんて、ご免だ。仲間を裏切るもんか。』
コリンはそう思った。
数時間後には、弁護士がコリンの病室へ入って来た。
弁護士は、20代の男性で、コリンより若く見えた。
使えないなと、一瞬でコリンは悟った。
自己紹介を終えると、コリンにこのままだと、残りの人生を刑務所に入ることになると言い放った。
FBIは、リチャードの組織がテロリストと協力関係があったことを重視していると言う。
コリンは、きっぱりと言った。
「リチャードは、ああいう連中とは違う。」
コリンは、腹が立った。
リチャードは、裏社会のプロにしか相手にしていなかった。
一般人を巻き込む連中とは、一線を画していた。
「では、どういう連中が君の所へ訪ねて来たのかな。」
弁護士が聞いた。
「俺は下働きで、何も見ていなかった。」
コリンが答えると、弁護士は悲しそうな表情をした。
「弟さんも心配しているんだ。内容は分からないが、連絡を取りたいらしいよ。」
コリンは、怒りを感じた。
FBIは、何も関係の無い弟まで巻き込もうとしている。
それを、自分達では無く、弁護士の口を通して伝えている。
何て卑怯な連中なんだ。
怒りで、コリンの顔は紅潮してきた。
コリンの弟、ケビン・コリンズは10歳年下で、コリンにとってかけがいのない存在である。
コリンが高校生の時に、父が心筋梗塞で倒れて以来、コリンはケビンの父親代わりとして支えてきた。
現在は、大学で会計学を学び、CPA(米国公認会計士)を目指している。
裏社会に飛び込んでからも、コリンはケビンへの援助を惜しまなかった。
『あの連中から、ケビンを守らなければ。』
コリンは唇をかみ締め、考えた。
暫く沈黙が続き、コリンは決心した。
「分かったよ。君の言う通りにするよ。」