暗闇の中に長いこといた。
暗闇が徐々に晴れ、コリン・マイケルズは、男女の声を微かに感じた。
やがてはっりきと声が聞こえ、男女が何か難しい単語を交わしているのが分かった。
その内に、明かりを感じるようになった。
目を開けるが、眩しかったので、直ぐに目を細めた。
手をかざそうとしても動かない。
「マイケルズさん。」
髭の青年医師が呼んだ。
医師の隣には、若い看護師が立っていた。
ここは病院なのか。コリンは、朦朧とした頭の中で考えた。
「マイケルズさん。私の指は何本か分かりますか。」
青年医師が、人差し指を立てて、尋ねた。
コリンが「一本。」と答えると、青年医師は幾つか質問した。
コリンが間違えずに答えると、青年医師は微笑んだ。
「もう、峠を超えましたね。」
隣の看護婦も、笑顔で頷いた。
青年医師は、コリンが10日間意識不明であったことを告げた。
「10日?!。」
コリンはあの事が昨日のことに思えてならなかった。
みんなはどうしているのか。
それを青年医師に聞こうとしたが、疲れたコリンは再び眠りについてしまった。
更に2~3日が経ち、コリンの意識は少しづつはっきりしてきた。
コリンは、体中に沢山の管が付いていることに気付いた。
体を動かそうとしたが、出来なかった。
その訳は、包帯の巻かれている左手首に手錠を掛けられ、もう一つは手すりに掛けられていたからだ。
はっとして、コリンは部屋を見渡した。
周りは医療機器しか目に入らず、誰もいない。
窓は厚いカーテンで締め切られ、天井の明かりのみであった。
壁は無機質で、暗い印象を与える。
個室のようだが、どこからか人の視線を感じる。
普通の病室とは違う。
コリンは看護師を呼ぼうとしたが、ナースコールが見当たらなかった。
すると、鍵の開く音がして、以前見た若い看護師が入室した。
入室する時、外から鍵を閉める音がした。
「ここの病院の名前は。」
コリンが尋ねると、看護師はそれは答えられないと、謝罪した。
コリンは、さらにリチャード達の安否を聞いた。
「倒れたときに、一緒にいたリチャードという男性はどうなりましたか。他に、同じ建物にいた3名の男性はどこにいますか。」
看護師は申し訳なさそうに、首を振って、コリンの毛布を直すと部屋を後にした。
コリンは、言いようのない不安に襲われた。
「ここは何処なんだ。」
部屋のカーテンが閉められたまま、1週間が過ぎた。
コリンは不安を抱えたまま、青年医師の診察を受けていた。
医師が診察するのは、恐らく朝であろうが、天井の明かりだけでは、確かではない。
時間を聞いても、医師は「申し訳ない。答えられないことになっているのです。」と謝るばかり。
看護師にした同じ質問をぶつけてみても、同じ答えであった。
コリンは苛立ちを通り越して、恐怖を感じた。
しかし、怪我の具合、弾を右手、右肩、腹に数発受けていること、その内の1発が動脈を傷つけ、大量出血を起こして生死の境を彷徨っていたこと、脳震盪もあったこと、そして軽い火傷を負っていることは、教えてくれた。
診察が終わると医師は、コリンに傷は快方に向かっており、これから事情聴取が始まることを告げた。
驚くコリンをよそに、医師と入れ替わる様にして、サングラスに黒いスーツを着た2人組みが入ってきた。
一人は、30代前半の赤毛の男で、180センチの長身で一瞬痩せて見えたが、よく見るとかなり体を鍛えている。
もう一人は、40代後半の金髪を結い上げた女である。
男より少し背が高い上に、筋骨隆々で、サングラスから鋭い眼光がコリンを捕らえている。
コリンは、鷹の前にいるネズミの気分になった。