※赤と緑の旗は人民解放軍の陸軍基地を示す。台湾海峡側に集中している。
国内では台湾海峡有事に関して政府やメディアが煽りすぎなのが気になるが、危機が本当にあるなしに関わらず国民に危機の認識をさせることで増税を伴う防衛力の増強を正当化する必要があるからだろう。
これは、総裁交代が行われたばかりの日銀が大丈夫なのか?ハイパーインフレは起こるのか?といった金融危機論にも通じるところがある。
「台湾海峡有事」というと物々しいが、中国の台湾に対する姿勢は、湾岸部にこれだけの人民解放軍の基地が集中しているとしても、軍事的に力尽くで手に入れなければならないものではないように思われる。
今後台湾海峡で起こるかも知れない事態をちゃんと理解するためには、いま中国が台湾海峡で行っていることを冷静に見る必要がある。
習近平主席の肝いり施策で「台湾を陸続きにする」と2035年までに台湾と本土をつなぐ全長130キロの橋を架けるという話もありますがどう捉えているか?という文春オンラインの記者の質問に対し、海上保安庁特殊警備隊(SST)の元隊長が以下のように答えているのがリアルで興味深い。
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そんなに短期間で作れるのかと疑問ですし、技術的に難しいのではないでしょうか。バカバカしいですし、ホラ話だと信じたいです。
仮に実現すれば、通るだけでもいちいち中国政府の許可を取る必要があるでしょうし、橋の下を通る順番を待ったり、「この時間はここしか通れません」と通行規制がかかったりする可能性もあります。
そうなると日本の船の航路が、中国政府のサジ加減で決まることになります。瀬戸大橋ですら下を通るのは高さ制限があって大変で、ましてや管理が中国だと管理者の気分次第で円滑な航行が妨げられるかもしれません。漁業や物流に大きな変化が起きそうです。
一般的にはあまりイメージがないかもしれませんが、日本の物流は船が止まれば終わりです。
エネルギー資源であれ何であれ、船の輸送がなければどうしようもありません。
また、橋のような巨大な建造物ができると、海流が変わり漁業にも影響が出る可能性もあります。
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中国と台湾を橋やトンネルで結んで「陸続き」にするという計画は、習近平国家主席が台湾対岸の福建省幹部だった1990年代から取り組んでいる自身肝いりの構想であり、現実に存在する計画だと思われる。
2020年までの「第13次5カ年計画」に福州と台湾を鉄道で直接結ぶ構想が盛り込まれるなど、中国側の長期インフラ構想にはしばしば登場してきた計画のひとつだ。
ただ台湾側では、対中傾斜を強めた国民党の馬英九政権(08~16年)ですら、世論の対中警戒感の高まりを背景に大橋計画へのゴーサインを出すことはなかった。計画の本格始動には台湾側の合意が不可欠で、膠着(こうちゃく)状態が長年続いている。
来年1月に行われる台湾総統選の結果次第では風向きが変わるかもしれない。
福州と台北の距離は122kmで、この距離の海峡大橋を建設するとなると、どのくらいの時間がかかるのだろうか?
香港とマカオ・珠海を繋ぐ世界最長の海上橋「港珠澳大橋」は、全長55kmで2009年12月に着工し、2018年10月に完成、およそ9年かけて建設されたが、この大橋自体、台湾海峡に橋をかけるための実験的建設であったとも言われている。
日本最長の橋「東京湾アクアブリッジ」のほぼ13倍。
そのうち海上を走っているのは香港側 (香港接線: Hong Kong Link Road) が約12キロ、海底トンネルが約7キロ、メインともいえるマカオ側の海上橋が約23キロとなっている。
建設のために使ったスチールは42万トン (エッフェル塔60個分)、道路表面の面積は70万平方メートル (サッカーフィールド98個分)という巨大な建築物だ。
55kmの香港珠海マカオ大橋の工期が9年かかったとすれば、倍以上の距離がある台湾海峡大橋は着工から18年以上かかりそうだが、まだ着工されていないとすれば2035年までの完成はほぼ不可能だ。
中国ではありがちな計画の遅れだが、上海やシンセンの地下鉄網や高速鉄道の開発など、一旦国策としてやり始めるとあっという間に作り上げてしまうのでまだ分からないが、きっといつかは実現するのだろう。
実は、台湾海峡大橋の建設という台湾側の合意や世界のコンセンサスが絡む計画に先行して、台湾海峡の中国側の湾岸を埋め立てていくプロジェクトが人民解放軍主導で行われているようで、中国が台湾の承認無しに勝手に進められる自国の領土拡大が粛々と行われている。
南沙諸島の埋め立てや基地化と同様に、10年くらいの間に、台湾海峡の中国側の湾岸地帯の埋め立てと軍事基地化が進み、それと並行して台湾海峡大橋の建設もいずれは始まるのだろう。
彼らのやることは、いつも狡猾で大胆かつ地道だ。
明確な軍事攻撃ではない手段で他国に被害を与える「グレーゾーン侵略作戦」とも呼ばれている。
台湾金門島周辺の海域で砂を採取し、大規模な埋め立てを行っていることに関しても、環境破壊の問題もあり、台湾からも米国の専門家からも批判されているにもかかわらず、中国船が台湾海峡の中間線付近で作業しているため、取り締まりは困難だという。
付け焼き刃なミサイル基地の開発など、日本が米国の意向に沿って行っている露骨な戦略ではこの中国の狡猾な「グレーゾーン戦略」には太刀打ちできそうにない。