エッセイ179「必死のラストスパート」 | あなたのココロ、治します。

エッセイ179「必死のラストスパート」


 中学生の時のことである。僕はバレーボール部に所属して毎日楽しく汗をかいていた。そこに新宿区主催の陸上競技大会に出場するという話が舞い込んできた。僕の通っていた淀橋中学校には陸上部がなかった。だから出場したい人は自由に参加できた。帰宅部の人もいればバスケットボール部の人もいた。

僕らは付け焼き刃で練習した。夜に集合して新宿中央公園の周りを無計画に走り込んだ。

そんな即席チームが本番に臨んだ。僕は三千メートル走に出場する予定だった。本番が近づいてきた。スタートのピストルがなる。目標順位などは考えていなかった。とにかく本能のままに走った。先頭集団はものすごいハイペースで走っていた。

こいつらに引き離されてはいけない、と思った。二百メートルのトラックを十五周走る。ついていくので精一杯だった。私立の中学校も参加していた。みんな陸上部に所属して本格的な練習を積んでいるに違いなかった。先頭集団のハイペースさは尋常ではなかった。それでも何とかして食らいついていった。

もうひとり淀中から参加していたOを何度も周回遅れにしていった。Oを追い越す度に「ファイト」と声をかけていった。

だんだん息が上がっていった。このままではワン・オブ・ゼムで終わってしまうと思った。行くしかない。僕は先頭集団を抜き去り、単独首位に立った。首位のまま走り続けたのは何周くらいだったろうか。横っ腹が痛くなってきた。息も限界に近い。僕のペースはだんだん落ちていった。

ラスト一周になり、後続が僕の横をすり抜けていった。ひとり、ふたり。体はもう限界を超えていた。しかしどうしても三位にはなりたかった。最後の百メートルは息を止めて走った。必死で三位の選手を抜こうとした。差は一メートルくらいしかなかった。ラストスパートには自信があった僕だったが、さすがにレベルの違う世界だった。三位の選手も僕に負けないラストスパートをかけていた。

ゴール。僕はゴールラインのすぐ近くで倒れ込んだ。友人たちが僕を抱えてベンチに寝かせつけた。呼吸はいつまでも荒いままだった。

結果は四位だった。僕はこの結果に大満足だった。友人に後一歩で銅メダルだったのに、といわれたが、僕は四という数字が好きなんだ、と答えた。そこにいたみんなが笑った。

翌日、月曜の朝礼で校長先生は全校生徒の前で僕を褒めちぎった。即席チームの中での優秀な成績、ラストスパートで顔面を真っ赤にしながら気力で走ったその姿を校長先生は褒めて下さった。僕は恥ずかしくて顔を赤らめながら下を向いて聞いていた。あの話のせいで僕のファンがまた増えた、と僕の彼女が愚痴をこぼしていた。