エッセイ174「帰らせてください」
しばらくバイトをせずにいたが、なぜかむくむくとバイトをしたくなった。またフロムAを買ってきて、めぼしい記事を探した。その中にあったのが十二時間労働の会場設営のバイトだった。いってみると若い男性ばかり集まっていた。全員にヘルメットと軍手を貸し出した。なんの仕事かわからなかったが、どうやらポルノグラフティーのライブ会場設営のようだった。
僕とあまり年が変わらないくらいのイベントスタッフが僕らをこき使った。移動するときは駆け足、返事をしっかりやれ、などと軍人のような扱いかたをされた。今日一日だけだ、がんばろうと自分に言い聞かせ、一生懸命働いた。
お昼は弁当と飲み物が支給された。もう働かせられすぎてヘロヘロだった。僕は照明の係になっていた。照明の人は忙しく、昼休みも早めに切り上げさせられて仕事に向かった。照明というとなんだか華やかな雰囲気を与えてしまうかもしれないが、そんなことは微塵もなかった。
とてつもなく重い照明器具を階段の最上段まで二人がかりで運んでセットするといった仕事だった。三台くらい器具を運んでいるともう肉体的な限界に達してしまった。いくらがんばっても器具を上に持ち上げられないのである。年齢のせいもあるし、ひきこもってばかりいて体力が落ちていることも原因だった。
もう辞めよう、そう思った。ヘルメットを脱いで責任者のところへいった。
「あのー、気持ち悪くなっちゃったので帰らせてください」
というと
「こんな早い時間じゃ給料あげられないぞ」
かまいません、と答えた。本当にお金なんてどうでもよかった。ただひたすらに仕事を辞めてうちに帰りたいと思った。
「ぎりぎりの人数でやっているんだからな」
といわれた。そんなことはなかった。遅刻してきた五人ほどの人々にさんざん説教を垂れて全員を帰らせていた。そのことをいってやろうかと思ったが、話がこじれるよりも早く帰りたかったので素直に従った。
コンビニで買ってきたスポーツドリンクをがぶ飲みした。ひどく汗をかいていたので体中に染み渡った。もう二度とやるものかと思いながら家に帰った。