エッセイ170「割の悪い塾講師」 | あなたのココロ、治します。

エッセイ170「割の悪い塾講師」


 特許事務所をクビになってからはしばらく完全休養していた。しかし半年くらいたって何かをしたい、何かをしなければならないと思った。個人レッスンの塾講師にさせてもらえないかと、アポなしで話にいった。理系で物理を教えられるということで採用になった。

 塾ではYシャツとネクタイをしなければならなかった。それがまずストレスになった。それから生徒と一対一か二対一で接しなくてはいけなかったのでそれにも気を使った。基本的には出来の悪い子のほうが多いので
「部活は何やっているの?」
とか

「英語は好き?」
といった世間話から入って生徒の集中力を引き出さねばならなかった。アルバイトのある日は朝から憂うつになっていた。出かける前には緊張を取るためにたばこを二本ほど吸って出かけなければならなかった。

 時給は千円だったが、スーツを着る準備時間や疲労度を考えると決して割のいいバイトではなかった。それにアルバイトの現役大学生が多い割には生徒が少なかったのでなかなか授業を任せてもらえなかった。

 一月に三千円しか入っていないこともあったのでだんだん塾からは離れていった。高校生の物理を教えることができなくて自信を失っていたこともある。

 僕は塾講師のバイトをするから、といって進研ゼミとZ会を取った。高校入試の過去問題集を買ったり、数学や物理の問題集を買ったりもした。
 
 しかし、たった三カ月で辞めてしまった。インターネットで家庭教師のTの教師募集のページに、うちから車で行ける距離の小学五年生がいることを知って、さっそくそちらに乗り換えたのである。