エッセイ164「一押し桂花ラーメン」 | あなたのココロ、治します。

エッセイ164「一押し桂花ラーメン」

 子供のころ、ラーメンを食べることができませんでした。食べると頭が痛くなり、気分が悪くなってしまっていたのです。麺に使うかんすいのせいではないかと思っていました。

 ところが小学校低学年の頃、家族で新宿の桂花ラーメンというラーメン屋さんへ行ったときのことです。僕の頭の中で革命が起きました。まだほんの少し気持ち悪かったものの、初めておいしいと思えたのです。ここは熊本ラーメンの店で、生煮えのような中太麺と濃厚な豚骨スープで、一度食べたら病みつきになってしまいました。
 
 僕の成長と共に、桂花も新宿に三店、渋谷にも数店、横浜にも、とどんどん事業を拡大していきました。
ラーメンといえば桂花、という意識がありましたから、桂花をここまで育て上げたのは僕ら家族だという感覚があります。実際、家族でよく食べに行きました。北新宿に住んでいましたので歌舞伎町までは歩いて行けたのです。

 僕が大学受験に失敗して不本意な大学に籍を置いていた頃、休学措置をとって下宿で悶々とした日々を送っていました。次の年に復学するときには三年も年下の人たちと仲良くやっていかなければなりませんでした。僕はどうすればいいのか悩みました。

 これといって趣味のない平凡な男でした。それなら無理矢理趣味をつくろう、と思いました。そこで真っ先に思いついたのがラーメン通です。自己紹介の時などに「趣味は自称ラーメン通です」などといえば面白いのではないかと思ったのです。

 それからは「おいしいラーメン店ガイド」などに載っているラーメン屋さんへわざわざ電車賃をかけて食べに行きました。本当に美味しいと思えるところもあり、大したことはないと思うところもありました。おいしいと思えるところでも交通が不便なために何度も行くことができなかったり、近くてももう二度と行かないと思うお店もあったりします。

「無理矢理趣味をつくる作戦」は成功しました。「自称」というところを強調するとみんなが笑ってくれます。「一番のおすすめは?」ともたいてい聞かれます。僕は少し考えてから「うーん、やっぱり新宿の桂花ですかねえ」と答えます。即答できないのは、桂花が外国人のアルバイトなどを使って味を落としていること、しかしそれでも桂花を上回る魅力的なラーメン屋さんが現れないからです。

味噌なら新宿の味源、熊本なら桂花、博多なら原宿のじゃんがららーめん、醤油なら有楽町の中本、等々、色々な分類をすればそれだけの数の一番おいしいお店があります。