エッセイ157「辛いですそううつ病」 | あなたのココロ、治します。

エッセイ157「辛いですそううつ病」

 僕は精神病患者である。そううつ病という病気である。大学でも会社でも隠していた。申し訳ないと思う。二週に一回精神病院に行って薬をもらっている。そううつ病とはどんなものかというと、そう状態(気分がハイ)とうつ状態(ブルー)が周期的に訪れる気分障害である。普通の人でも感情の起伏はもちろんあるが、そううつ病患者はその振幅が異常に大きく、社会・日常生活を普通におくることができない。

どうなったらかかるかというと、一般的には遺伝的要素が大きいとされている。原因は未だに不明だが、セロトニンやノルアドレナリンの過剰減少と増加が原因ではないかという説が有力なようだ。そううつ病になる割合は人口の○.四%で、女性に多いといわれている。かかりやすい人の性格は、几帳面で責任感が強く、まじめで完全主義者、といったところだ。そういった素質を持った人に大きなストレスがかかったりすると発病するのだろう。

そう状態の症状は、誇大妄想や多弁多動などによって返済能力もないのに家を買ってしまったり、性的逸脱行動をとって後でひどく後悔したり、周りの人に迷惑をかけたりすることが挙げられる。うつ状態の症状は、抑うつ感、悲観的、自殺念慮、思考力減退、無気力、無能力感、全身倦怠感、易疲労性、不眠、などが挙げられる。

僕の場合、特に春になると強いうつ状態かそう状態になる傾向がある。その年によって症状が違う。花粉などが脳内物質に何か影響を与えるのかも知れないが、原因はよくわかっていない。新生活がスタートする大事な時期にこうなるのだから社会生活に失敗するのもわけがない。

治療には薬物療法と休養が必要である。僕はそううつ病に劇的な効果があるとされている炭酸リチウムと抗うつ薬を飲んでいる。休養としては社会生活自体を休養しているし、日々できるだけストレスがかからないように気をつけている。眠前に必ず眠剤を飲んで寝る。

治るのか? これは僕も聞きたい。計四年ほど通院して薬を飲んで症状は軽くなった気はしているが、まだ普通の人とはほど遠い感じである。入院先のある医者が「うつ病の九十七%治るから」っていったら、他の患者が「じゃあ俺は残りの三%か!」っていうやりとりを聞いたことがある。

心の風邪といわれる単極のうつ病での話である。そううつ病はもっとたちが悪い。治りそうな感じがしない病気なのだ。どの医者もどの本も「うつは必ず治る病気です」って口を揃えていう。それが逆に怪しい感じがする。なんだか病院の経営を成り立たせているよいリピーターになってしまっているのではないかと思ったりする。

レントゲン写真で見たり数値で表せるものじゃないから、どこまでが正常でどこからが異常なのか基準がわからない。こんなに懐疑的になるのもこの病気が「自分は一生治らないのではないか」と悲観的・懐疑的になる性質があるからで、これで余計ややこしくなってしまう。

完治したとしても再発率が高いので再発防止のためにも薬の長期服用が必要だそうだ。僕はある医者に「一生病院と関わっていかなければならないでしょう」といわれた。これを聞いたときは絶望した。今は薬をもらいに行くだけならいいや、と思えるが。

以前は「早く治さなきゃ」という気持ちが強くて、「いつ治るんですか」と医者を問いつめたことがある。でも焦るのはよくない。「一生治らなくていいや」といったん諦めることが大事みたいである。そうすればサプリメント感覚で薬を飲んでじっくり治療できるんじゃないかと思う。

診察代や薬の値段は、大学病院にかかっていたときは、国保三割負担で診察代千三百円と二週間分の薬代千七百円で計三千円くらいだった。ということは保健なしだと一万円かかるわけだ。ところが、大学病院の杜撰な診療にうんざりして、家の近くの小さな精神病院に変えたら、僕だけ四千円くらいかかっているのに周りの患者は数百円で済んでいることに気がついた。

なぜなのか薬剤師に聞いたら、精神衛生法三十二条っていうのがあって、それを申請すると五%負担で済むということがわかったので早速申請した。要するに地方自治体に税金で負担させるという手があったのを知らなかったのだ。そうしたら診察代二百五十円、薬代四百円。アホみたいだ。今まで何年も六倍も高く払っていたわけだ。情報って大事だと思った。

あと、大きい病院だからとか、大学病院だからとかいって過信してはいけない。それらはシステムとして稼働しているだけであって、患者のことを考えてくれている慈善団体ではない。特に大学病院は医者や看護婦を養成する教育機関である側面が大きいので、学生やインターンを平気で診察に使ってくる。学校で習ったマニュアル通りの質問を繰り返してくるのがオチである。

そううつ病患者が生存する意義はあるのか? これはきびしい問いかけである。しかしそううつ病と天才の関連性をきわめるパトグラフィー(病跡学)という学問がある。これを提唱したのはメビウスの環で有名なメビウスである。彼は文豪ゲーテについて研究し、ゲーテには七年ごとのそううつ周期があることを実証した。

軽そう時に「ファウスト」「親和力」「ヘルマンとドロテーア」などを執筆したそうだ。また、上智大の福島章教授は宮沢賢治の詩作量が七年周期のそううつ性気分変動と一致していることを確かめている。「春と修羅」や「注文の多い料理店」を書いたのは二十四歳のそう状態の時だった。

さらに、現代作家の北杜夫は自分がそううつ病患者であることを公言してはばからない。僕も生産的な方向に病気を活用できたらなあと思っている。

参考文献:柏瀬宏隆「うつ病・そう病を治す」保健同人社、一九九五年