エッセイ58「不幸の手紙と金持ち父さん 」 | あなたのココロ、治します。

エッセイ58「不幸の手紙と金持ち父さん 」


ポストをあけると不幸の手紙が入っていた。警察署からの母宛の物だった。内容はわかっていた。駐車禁止を一週間くらい前に母の車でやったのだ。母に見せずに保管しておけばもう通知は来ないかもしれなかった。しかし、根が正直なのか、僕は母に見せた。大学の体育会自動車部で関西人の先輩に「あんなもん引きちぎって無視しとったら全然OKや」と教えられた記憶があって、そういうもんなんだなあ、と思い、黄色い違反ワイヤーをペンチで引きちぎって自分の部屋のゴミ箱に捨てた。違反通知をずっと無視していたら大丈夫だったのかもしれない。警察署へ行く途中でそう思った僕は母に電話した。「やっぱり行くのやめない? なんか正直者がバカを見るみたいじゃん」母はそんなことはない、きちんと行きなさいといった。ここで「そうね。ばっくれちゃおうかしらね」などと母が言ったら教育上は問題あっても面白かったかもしれない。
世の中不公平にできているし、ずるして得をしている人もいるが、残念ながら我が家は正直者で、バカを見るタイプだった。家庭教師のバイトをしていたときにそんなことを感じていた。お父さんが司法書士として独立していた。ただ、法外な手数料を取っているらしく、異常に金回りがよかった。ジャガーとシボレーとフォルクスワーゲンを持っていたし、別宅も持っているらしかった。お父さんも子どもふたりも良い物の食べ過ぎで完全な肥満だった。「金持ちっていうのはずるしてなるものなんだな」と思った。確かに司法書士は司法試験を諦めた人がなるものではないくらいに難関度は高まっているが、しょせん「書士」である。そんなに儲かるはずはなかった。うちの隣の弁護士よりも羽振りが良さそうだった。子どももすぐ嘘をつくし、親は子供にポーカーのインチキを教えていた。叔父に医者がいた。お父さんは獨協なのでたかがしれている。きっと叔父も金で入ったのだろう。そんなわけで、人生ずる賢く生きなきゃ損だなと思った。そんなわけで世の中にはずるをして得している人もいれば、バカ正直にいきているひともいるんだなあ、と家庭教師のバイトで学んだのです。僕は平気で嘘をつくことはできないし、ちまちま生きていくタイプです。
で、警察署に着きました。引きちぎったワイヤーを婦警さんに見せると「どうしてこんなことをするの?」「いや、友人がそんなもの引きちぎって捨てても何のおとがめもないと言うもので」普通は少し説教されて支払書をもらって終わりのようですが、僕の場合、始末書を書かされました。何だか小学生みたいでした。始末書の「始」や「警察署長殿」などという漢字が書けなかったりして。
警察もずるいんですよ。日曜日に地方都市に行った僕がバカだったと言えばそうなのですが、地下駐車場に入るための車の列が地上五○メートルくらいになっている状況ですよ。それにならぼうなんて思わないですよ。小市民をいじめる根性が嫌ですね。でもそんな口答えをしてはいけません。なんせ相手は公務員、警察ですから。しかも婦警さんっていうのはまじめで固いんですよね。固いから職業として警察を選んでいるわけですから。そんなわけで始末書を書いて、支払書をもらって帰ってきました。一万五千円でした。あれ、こんなに安かったかな? と思いました。以前やったとき三万円くらいとられた記憶があるのですが。
ひまな日常にちょっとしたアクセントになって良い経験をしたなあと思います。