シナリオ6「時計」
○通り
中山恵美(が歩いている。
恵美の心の声「今月はひろくんの誕生月だ
わ。何をプレゼントしてあげたらいいかし
ら」
恵美がふと足を止める。
恵美の心の声「こんなところに骨董品店が
あったかしら。プレゼントになるものがあ
るかも」
恵美が店の中に入っていく。
○骨董品店内
客はいない。店員もいない。
恵美は気にせず中山健(に贈るプレ
ゼントを探している。
恵美が歩みを止め、古い腕時計を手
に取る。
恵美の心の声「健さん、腕時計をコレクシ
ョンしているけど、さすがにこんな骨董品
は持ってないわ」
恵美が値札をみる。
恵美「高い! こんな古い時計が三万円も
するの? 古いから高いのかしら。でも誕
生日にはぴったりだから買っていくわ」
恵美は古時計をもってカウンターを
のぞき込む。
恵美「すみませーん! 誰かいませんかー。いなかったら勝手に持っていっちゃいますよー!」
奥からがさごそと音を立てながら老人( が現れる。
老人「それは持っていかれたら困るのじゃ」
恵美「お金はちゃんと払いますから電池
を取り替えて、動くようにしてください」
老人「それは電池では動かんのじゃ」
恵美「まあ、今時ねじ巻き式?」
老人「ねじでも動かん。持った人の心で動く
のじゃ」
恵美、眉間にしわを寄せて
恵美「ずいぶん小難しい時計なのね。でも
買うわ」
恵美が財布からお金を取り出して老人に渡す。
老人「きちんとした人に渡しなさい」
恵美「私はきちんとしてないから時計が動
かないのね」
老人「そんなことは一言もいっとらん」
恵美「まあいいわ。ありがとう。おじさん」
恵美が店を出る。
○中山家
恵美が健の帰りを待っている。
そこへ健が帰ってくる。
健「ただいまー」
恵美「おかえりなさい。ダーリン」
健「おお、どうしたんだ? ずいぶんラブラ
ブじゃないか」
恵美「うん。今月あなた誕生月でしょ。実
はもうプレゼント用意してあるんだ。隠し
ておこうと思ってたんだけど見せたくてし
ょうがなくなっちゃった」
健「で、どこにあるの?」
恵美、後ろに隠してあったプレゼン
トを健の目の前に出す。
健「へえ、きれいにラッピングしてあるね。
これは恵美がしたの?」
恵美、目を輝かせながら
恵美「わかる? ねえ傑作でしょ」
健「うん、すごくきれいにできてる。開ける
のがもったいないな」
恵美「まあそういわずに開けてくださいな」
健、ラッピングを丁寧にほどきながら
健「これはもしかして時計かい?」
恵美「そうよ。どう?」
健「すごいアンティークだね。僕の時計のコ
レクションにはない一品だね。うれしいよ。
ありがとう」
健「これはゼンマイ式かい?」
恵美「それがね、これを買ったお店の人が
おかくてね、持つ人の心で動くっていうの
よ」
健「ずいぶん小難しい時計なんだな。僕の心
で果たして動くだろうか」
恵美「ね、ね、やってみて。あたしが腕に
はめても動かなかったの」
健、恐る恐る腕にはめてみる。
健「おっ」
恵美「動いた! いったいどうなってる
の?」
健「本当に恵美がはめても動かないの?」
健、腕から時計をはずして恵美に手
渡す。時計は止まる。
健「へえ、本当に人を選ぶんだ。ずいぶん古
そうなのに賢いじゃないか」
恵美「今時のハイテク時計よりもすごいわ
ね」
健「ファジー理論でもないし、乱数理論でも
ない。いったいどうなっているのだろう」
恵美「あなたの会社の研究室で調べてもら
ったらどうかしら」
健「うん、明日持っていってみるよ」
○健の会社・研究室
健が研究員に向かって
健「開発部の中山ですが、この時計の動力を
調べていただきたいのですが」
研究員「なるほど。電池でもゼンマイでもな
い。人を見極めて動いたり動かなかったり
するわけですな。実際私がつけても動かな
い。ほかの研究員全員試したが全く動かな
かった。となるとあなたは何かしらの基準
で選ばれたわけですな」
健「僕が? なんでだろう」
研究員「我々がわかることはそれだけです」
健「どうもありがとうございました」
健が研究室をあとにする。
○同・健のデスク
健が古い腕時計をして仕事をしている。
高橋が近づいてくる。
高橋「よう、ずいぶんアンティークな時計
してるじゃないか」
健「ああ、誕生日のプレゼントに妻がくれた
んだ」
高橋「ところでお前いくつになったんだ?」
健「三十二だよ」
高橋「おかしいな、俺たち同期入社だろ。
俺もお前も三十四歳のはずだ」
健「そうだよな。三十四歳のはずだ。どうな
っているんだ?」
高橋「おい、その時計、貸してみろ」
健、時計をはずして渡す。
高橋「俺がつけても動かないぞ、お高くと
まってらあ」
健「その時計、どうやら人を選ぶらしいんだ」
高橋「現代のテクノロジーでそれは無理だ
ろう」
健「俺もそう思う。それにこの時計を身につ
けているとなんだか若返るような気がする
んだ」
高橋「おい、お前さっき何歳になったっていったか?」
健「三十だよ。あれ、おかしいな。この時計
をしていると時空間が乱れるぞ」
高橋「今何時を指しているんだ?」
健「二十五歳と四ヶ月十七日午後三時半だ」
高橋「その時計の針を回してみろ」
健が長針をねじる。電話で時報通りに
時計を合わせる。
高橋「今何歳だ?」
健「三十四歳だ」
高橋「やっと直ったぞ」
健「この時計は持つ人を選ぶだけじゃなく、
時空間をいじられるんだ。こいつはすごい
ものを手に入れたぞ」
健が時計のねじを十七時に合わせる。
仕事が終わり、社員がどんどん帰り始
める。
健「こいつは面白い。さっさと家に帰ってし
まおう」
健が時計を十九時に合わせる。
○中山家(
恵美が料理をつくって健の帰りを待つ。そこへ健が帰ってくる。
健「ただいまー」
恵美「おかえりなさい。雨に当たらなかった?」
健「雨? 降ってたの?」
恵美「そうよ。傘持っていかなかったでしょ?」
健「ああ、時空を飛ばしてきたから気づかなかった」
恵美「なんですと?」
健「恵美、お前はものすごい時計を買ってきてくれたんだ」
恵美「その時計で時空を飛んできたの?」
健「そう、この時計の針を回せば遙か未来へもいけるし、ずっと昔に帰ることもできるんだ。」
恵美「それって便利だけどとても恐いわ。だって自分がいつ死ぬかとか、わかっちゃうんでしょ」
健「そういうことになるね。三十年後に僕らが離婚していないかどうかもわかるね」
恵美「恐いけどいってみたい・・・」
健「いこう! 僕の六十四歳の時へ!」
健が時計の針を三十年分回す。
○同・縁側
健と恵美が寄り添い合ってお茶を飲んでいる。
健「お前のおかげで素晴らしい人生になったよ」
恵美「あなたについてきてよかった」
中山恵美(が歩いている。
恵美の心の声「今月はひろくんの誕生月だ
わ。何をプレゼントしてあげたらいいかし
ら」
恵美がふと足を止める。
恵美の心の声「こんなところに骨董品店が
あったかしら。プレゼントになるものがあ
るかも」
恵美が店の中に入っていく。
○骨董品店内
客はいない。店員もいない。
恵美は気にせず中山健(に贈るプレ
ゼントを探している。
恵美が歩みを止め、古い腕時計を手
に取る。
恵美の心の声「健さん、腕時計をコレクシ
ョンしているけど、さすがにこんな骨董品
は持ってないわ」
恵美が値札をみる。
恵美「高い! こんな古い時計が三万円も
するの? 古いから高いのかしら。でも誕
生日にはぴったりだから買っていくわ」
恵美は古時計をもってカウンターを
のぞき込む。
恵美「すみませーん! 誰かいませんかー。いなかったら勝手に持っていっちゃいますよー!」
奥からがさごそと音を立てながら老人( が現れる。
老人「それは持っていかれたら困るのじゃ」
恵美「お金はちゃんと払いますから電池
を取り替えて、動くようにしてください」
老人「それは電池では動かんのじゃ」
恵美「まあ、今時ねじ巻き式?」
老人「ねじでも動かん。持った人の心で動く
のじゃ」
恵美、眉間にしわを寄せて
恵美「ずいぶん小難しい時計なのね。でも
買うわ」
恵美が財布からお金を取り出して老人に渡す。
老人「きちんとした人に渡しなさい」
恵美「私はきちんとしてないから時計が動
かないのね」
老人「そんなことは一言もいっとらん」
恵美「まあいいわ。ありがとう。おじさん」
恵美が店を出る。
○中山家
恵美が健の帰りを待っている。
そこへ健が帰ってくる。
健「ただいまー」
恵美「おかえりなさい。ダーリン」
健「おお、どうしたんだ? ずいぶんラブラ
ブじゃないか」
恵美「うん。今月あなた誕生月でしょ。実
はもうプレゼント用意してあるんだ。隠し
ておこうと思ってたんだけど見せたくてし
ょうがなくなっちゃった」
健「で、どこにあるの?」
恵美、後ろに隠してあったプレゼン
トを健の目の前に出す。
健「へえ、きれいにラッピングしてあるね。
これは恵美がしたの?」
恵美、目を輝かせながら
恵美「わかる? ねえ傑作でしょ」
健「うん、すごくきれいにできてる。開ける
のがもったいないな」
恵美「まあそういわずに開けてくださいな」
健、ラッピングを丁寧にほどきながら
健「これはもしかして時計かい?」
恵美「そうよ。どう?」
健「すごいアンティークだね。僕の時計のコ
レクションにはない一品だね。うれしいよ。
ありがとう」
健「これはゼンマイ式かい?」
恵美「それがね、これを買ったお店の人が
おかくてね、持つ人の心で動くっていうの
よ」
健「ずいぶん小難しい時計なんだな。僕の心
で果たして動くだろうか」
恵美「ね、ね、やってみて。あたしが腕に
はめても動かなかったの」
健、恐る恐る腕にはめてみる。
健「おっ」
恵美「動いた! いったいどうなってる
の?」
健「本当に恵美がはめても動かないの?」
健、腕から時計をはずして恵美に手
渡す。時計は止まる。
健「へえ、本当に人を選ぶんだ。ずいぶん古
そうなのに賢いじゃないか」
恵美「今時のハイテク時計よりもすごいわ
ね」
健「ファジー理論でもないし、乱数理論でも
ない。いったいどうなっているのだろう」
恵美「あなたの会社の研究室で調べてもら
ったらどうかしら」
健「うん、明日持っていってみるよ」
○健の会社・研究室
健が研究員に向かって
健「開発部の中山ですが、この時計の動力を
調べていただきたいのですが」
研究員「なるほど。電池でもゼンマイでもな
い。人を見極めて動いたり動かなかったり
するわけですな。実際私がつけても動かな
い。ほかの研究員全員試したが全く動かな
かった。となるとあなたは何かしらの基準
で選ばれたわけですな」
健「僕が? なんでだろう」
研究員「我々がわかることはそれだけです」
健「どうもありがとうございました」
健が研究室をあとにする。
○同・健のデスク
健が古い腕時計をして仕事をしている。
高橋が近づいてくる。
高橋「よう、ずいぶんアンティークな時計
してるじゃないか」
健「ああ、誕生日のプレゼントに妻がくれた
んだ」
高橋「ところでお前いくつになったんだ?」
健「三十二だよ」
高橋「おかしいな、俺たち同期入社だろ。
俺もお前も三十四歳のはずだ」
健「そうだよな。三十四歳のはずだ。どうな
っているんだ?」
高橋「おい、その時計、貸してみろ」
健、時計をはずして渡す。
高橋「俺がつけても動かないぞ、お高くと
まってらあ」
健「その時計、どうやら人を選ぶらしいんだ」
高橋「現代のテクノロジーでそれは無理だ
ろう」
健「俺もそう思う。それにこの時計を身につ
けているとなんだか若返るような気がする
んだ」
高橋「おい、お前さっき何歳になったっていったか?」
健「三十だよ。あれ、おかしいな。この時計
をしていると時空間が乱れるぞ」
高橋「今何時を指しているんだ?」
健「二十五歳と四ヶ月十七日午後三時半だ」
高橋「その時計の針を回してみろ」
健が長針をねじる。電話で時報通りに
時計を合わせる。
高橋「今何歳だ?」
健「三十四歳だ」
高橋「やっと直ったぞ」
健「この時計は持つ人を選ぶだけじゃなく、
時空間をいじられるんだ。こいつはすごい
ものを手に入れたぞ」
健が時計のねじを十七時に合わせる。
仕事が終わり、社員がどんどん帰り始
める。
健「こいつは面白い。さっさと家に帰ってし
まおう」
健が時計を十九時に合わせる。
○中山家(
恵美が料理をつくって健の帰りを待つ。そこへ健が帰ってくる。
健「ただいまー」
恵美「おかえりなさい。雨に当たらなかった?」
健「雨? 降ってたの?」
恵美「そうよ。傘持っていかなかったでしょ?」
健「ああ、時空を飛ばしてきたから気づかなかった」
恵美「なんですと?」
健「恵美、お前はものすごい時計を買ってきてくれたんだ」
恵美「その時計で時空を飛んできたの?」
健「そう、この時計の針を回せば遙か未来へもいけるし、ずっと昔に帰ることもできるんだ。」
恵美「それって便利だけどとても恐いわ。だって自分がいつ死ぬかとか、わかっちゃうんでしょ」
健「そういうことになるね。三十年後に僕らが離婚していないかどうかもわかるね」
恵美「恐いけどいってみたい・・・」
健「いこう! 僕の六十四歳の時へ!」
健が時計の針を三十年分回す。
○同・縁側
健と恵美が寄り添い合ってお茶を飲んでいる。
健「お前のおかげで素晴らしい人生になったよ」
恵美「あなたについてきてよかった」