シナリオ1「すすき」 | あなたのココロ、治します。

シナリオ1「すすき」

○中田家・玄関(
   中田明(がスーツを着て会社に行く準
備をしている。
   玄関まで中田有子(が送りに来ている。
有子「あなた、今日は大丈夫?」
明「ああ、たぶん大丈夫だ」
有子「いってらっしゃい」
明「いってきまーす」

○同・リビング
   電話が鳴る。急いで有子が受話器を握
る。
有子「はい、中田です。・・・え、またですか・・・
はい、わかりました。申し訳ございません」
   有子が受話器を置く。そしてもう一度
受話器を持つ。明の携帯電話の番号を
押す。
有子「明ったらもう!」
   一度電話を切ってまたかける。
有子「えー有子です。会社から電話が来まし 
た。今どこにいるの? このメッセージを
聞いたら電話をちょうだい。以上!」

○田舎駅
   サラリーマンが群をなして東京行きの
電車を待っている。
   反対の下りのホームに明がいる。
車内アナウンス「次は土田舎―、土田舎です」
   土田舎行きの電車に明が乗る。

○土田舎駅
   誰もいないホームに明が降り立つ。
明「有子のやつ、また怒ってるだろうなあ。
うちに帰りたくないなあ。もう離婚届には
んこを押してもらおう」
   明が携帯電話の電源を入れる。
   メッセージを聞く。
明「うわーやっぱり怒ってる。帰りたくないよう」

○中田家・リビング
   有子が明の携帯電話の番号を押す。
   やっと繋がる。
有子「明、もう怒らないからうちに帰ってきてちょうだい」
明「うん、帰るから怒らないでね」
有子「怒ったりしないわ」
明「わかった。今すぐ帰るよ」
有子「今どこにいるの?」
明「いつものところさ」
有子「また土田舎へ行ったのね。まあいいわ。帰りを待ってるわ」

○同・玄関
   明が恐る恐る家に入ってくる。
明「ただいまー」
有子「お帰りなさい。ゆっくりお話をしましょう」
明「僕もそれがいいと思う」

○同・リビング
   明と有子が向かい合って座る。
有子「なんで会社に行くのは嫌なの?」
明「みんな行きたくて行ってるわけじゃないさ」
有子「この状態が続くと会社首になるわよ」
明「首になって当然さ」
有子「首になったらあたしたちどうなるの?」
明「別れてくれてもいいんだ」
有子「別に別れなくったっていいじゃない」
明「僕が働かなきゃ食っていけないじゃないか」
有子「あたしも働くわ。ねえ、あたしたちお互い好きでいるから結婚したわけでしょ」
明「そうだけど」
有子「一緒に何とかがんばろうよ」
明「そうだね」
   沈黙する。
有子「ねえ、あなたがいつも行っている土田舎ってところ、あたしも行きたいな」
明「うん、僕も有子に見せてあげたい」

○同・リビング
   明より先に有子が起きてくる。
   炊飯器のふたを開けておむすびを作り
始める。
   明も起き出してくる。
明「ずいぶん早いんだね。なにしているとこ
ろ?」
有子「おむすびをつくってるの。ピクニック  
みたいで楽しいでしょ?」
明「本当だね。楽しくなってきた。でも会社
はどうしよう」
有子「首になったっていいじゃないの。ほか
にもいくらでも生きていく方法があるわ」
明「わかってくれているんだね」
有子「もう十年もつきあっていますからね」
明「離婚されるかと思った」
有子「あたしも離婚は考えたの。でもあなた
に食べさせてもらいたくて結婚した訳じゃ
ないのよ。好きだから結婚したんじゃない」
明「そうだね。二人で何とかやっていこう」
   二人が見つめ合う。二人とも笑みがこ
ぼれる。

○同・玄関
   私服を着て二人が出かける準備をして
いる。
明「ああ、スーツを着なくていいなんて幸せ
だあ」
有子「あら、そんなことで幸せになるんだったらもっと早くいってくれればよかったのに」
   二人が笑い合う。

○田舎駅
   いつものようにサラリーマンが東京行
きの電車に乗り込んでいる。
有子「うわー、こんなに人がいるんだ。これ
なら行きたくなくなるのが自然よね」
明「わかってくれるかい。うれしいよ」
   ガラガラにすいた下り電車がホームに
入ってくる。
車内アナウンス「九時ちょうど発、土田舎行
きです」
有子「うわー、ガラガラ。あたしもこっちに
乗ると思う」
明「へへ、わかってくれてうれしいよ」
   二人が下り電車に乗り込む。

○車内
   二人が座席に座る。
有子「はー、子供の頃を思い出すなあ」
明「学校をさぼったりしたの?」
有子「うん、学校が嫌いだったわ」
明「そんなこと初めて聞いたなあ」
   二人が笑い合う。
明「僕はちゃんと学校に行ってたよ」
有子「あなたはまじめ過ぎるから爆発しちゃ
うのよ」
明「そういうものかな」
有子「そういうものよ。あたしだってろくに
家事やってるわけじゃないし、ガス抜きが
必要なのよ」

○土田舎駅
   二人が電車を降りる。
   目の前一面すすき野原が広がっている。
有子「うわー、いい眺め」
明「そうだろ? 人間がうじゃうじゃいると
ころよりこっちに来たくなるだろ?」
有子「なるなる。すすきが黄金のようね」
明「まず僕の秘密基地にきみを招待しよう」
有子「まあ、秘密なのに?」
明「有子だけは特別サービス」
   明が先に歩き始める。
   二人の背丈より高いすすき野原に入っ
ていく。
有子「わーっ迷子にならないかしら」
明「僕の腕をつかんでおいで」
○秘密基地
   すすき野原の波から突然目の前が開け
る。
有子「わお、ここが秘密基地?」
明「そうだよ。火をつければ飯盒もあるし、
近くに川が流れているから鮎なんかが釣
れる」
   明が自慢げに秘密基地を紹介する。
明「ここはふかふかにすすきを敷いてあるからベッドになるんだ。雨が降っている時はあ
っちに洞窟があるからそこで待機」
有子「もう、本当に子供っぽいんだから」
明「秘密基地の説明はこれくらいだ。次はミ
ステリーサークルを一緒につくろう」
有子「あれはユーフォーがつくるんじゃない
の?」
明「本当のところはどうなのかよくわからな
い。でも人間がつくることもできるんだ」
有子「ふーん、そうなんだ」
明「いつここから出ればいいのか僕にもわか 
らない」
有子「うん」
明「でもいつかは秘密基地から出なくちゃい
けないし」
有子「うん」
   沈黙の時が流れる。
明「僕の父親のやっている農家を継がないかといわれているんだ」
有子「あらやだ、初耳だわ」
明「一緒に農業やっていかないか?」
有子「素敵ね。苦労も多いだろうけど」
明「僕が出せる結果はそれだけ。ついてきて
くれる?」
有子「もちろんよ。あたしも働かなきゃいけ
ないと思っていたの。パートなんかやって
も大した額にはならないし、あなたと一緒
に何かしたいって思っていたの」
明「よし、土田舎を出て田舎に帰ろう!」
有子「おー!」