連載短編小説『それでも人生に』 ①
仏壇がある座敷の灯りをつけた。座布団に正座してマッチを手に取った。マッチは少し湿気っていて、三回目で漸く火がついた。その火を蝋燭に移してマッチは火消しに入れる。線香入れから三色ある内の一本、緑色の線香を選んでその先端を蝋燭の炎の上端に近づけた。炎の上端が最も高温だと小学校の理科で習った。線香を軽く振って火を消し、垂直に灰の中に立てる。
線香とは、人がいずれ灰になることの象徴なのだろうか。以前は誰にも聞こえないくらいに弱く二度鐘を鳴らしていたが、今は坊主の真似をして勢い良く一度だけ叩く。音色は少しずつ小さくなりながら、長い時間を掛けて無へと収束していく。
私は目を瞑らない。膝の上に軽く手を合わせて父親の遺影を見る。術後に出社して、退院祝の花束を受け取っている時の写真だ。女性社員に手渡されてニヤニヤしている。そんな表情をしている父親の写真はあまりなかった。「あんまり恐い顔をしている写真じゃ睨み付けられている様で嫌だね」と私ら遺族三人で選んだ写真だった。頬は極端に痩せこけて目尻の皺が目立つ。それから位牌に刻まれた戒名を頭の中で音読する。最後に仏壇全体を見る。供え物や花、仏の絵、仏壇の上に置かれた祖父母と父親の弟の遺影。
彼らが私のこれからの人生を支配しているように思えてならない。幸せにして下さい、なんて祈らない。ただ、彼らの力を感じながら仏壇をぼんやりと眺めている。
線香とは、人がいずれ灰になることの象徴なのだろうか。以前は誰にも聞こえないくらいに弱く二度鐘を鳴らしていたが、今は坊主の真似をして勢い良く一度だけ叩く。音色は少しずつ小さくなりながら、長い時間を掛けて無へと収束していく。
私は目を瞑らない。膝の上に軽く手を合わせて父親の遺影を見る。術後に出社して、退院祝の花束を受け取っている時の写真だ。女性社員に手渡されてニヤニヤしている。そんな表情をしている父親の写真はあまりなかった。「あんまり恐い顔をしている写真じゃ睨み付けられている様で嫌だね」と私ら遺族三人で選んだ写真だった。頬は極端に痩せこけて目尻の皺が目立つ。それから位牌に刻まれた戒名を頭の中で音読する。最後に仏壇全体を見る。供え物や花、仏の絵、仏壇の上に置かれた祖父母と父親の弟の遺影。
彼らが私のこれからの人生を支配しているように思えてならない。幸せにして下さい、なんて祈らない。ただ、彼らの力を感じながら仏壇をぼんやりと眺めている。