.....O
さっき…
不忍池でキスしたとき…
止まらなかった。
やりすぎだってわかってたのに、
止められなかった。
骨董市で俺に、自分では買わないものを
聞いてきた和。
あの花瓶の意図が分かってしまって…
和の気持ちが痛いほど伝わってしまって…
和が望んだのは、
俺の人生に自分の痕跡を残すこと。
あの花瓶を見て、自分のことを思い出して
欲しいんだ。
自分と俺の人生が決して交わらないことを
知っているからこその…
せめて、という願い…
意味がわからないふりをしたけれど、
本当はそんなことを想う和を
その場で抱きしめたかった…
あいつに…
あの、顔見知りのイラン人に話しかけ
られたときも…
『かわいい子猫ちゃん連れてるね』
そこまでは、まだ良かった。
適当に笑って流せた。
けど、
『この子、売ってよ。いくら?』
って言われて…
カッと頭に血がのぼった。
いつもだったら、その程度、
うまく返せるのに…
全然だめだった。
和のこと、そういう目で見られるの、
耐えられなかった。
もうやばい…
終わりにしないと、これ以上は…
これ以上、和に関わると、
きっとまずいことになる。
なのに…まだ、終わりにしたくない。
あと少し、もうちょっとだけ…
そう思ってる自分がいる。
でも、終わらせないと…
長引けば長引くほど、
和にも辛い思いをさせることになる。
だから、今、ここで言おうと。
この恋は、刹那の夢なのだと。
夢は、醒めるものだと。
それで最後に、和が目を覚ますような…
俺に愛想をつかすような一言を添えれば
いい。
そう決心して、口を開いた。
のに…
「―――……」
話がある…と、言ったきり、
いつまでも何も言わない俺を
和が不安げに見ている。
「…智さん?」
「………ごめん、なんでもない。
寒いから…もう、戻ろ…」
「…はい…」
結局、俺は…
何も言えなかった。