部屋中のモニターに赤裸々に映し出された
その映像…響く声…
「止めてくれ…!」
耐えられなくて、目を閉じて耳を塞いだ。
…撮られてたのか…
偶然防犯カメラに映ってたなんて
言ってたけど、このアングル…
これは絶対確信犯だ。
俺は気が付かなかったけど、
撮影するのに都合のいい場所に
さりげなく誘導されてたんだろう。
最初から、そのつもりで…?
「大野さん?大丈夫ですか?」
ニノの呼びかけに顔をあげる。
「…これを公開する気?」
「さあ…どう思います?」
「…こんな動画が出まわったら、
ニノだって…」
「私はもともと社会とは隔たったところで
生きていますから、別になんとも」
「俺は、困る…俺は普通のサラリーマン
なんだ…こんな…」
震える声でそう絞り出した俺に、
ニノは優しく微笑んだ。
「安心してください、大野さんの意向を
無視して勝手にアップしたりしませんよ。
…全てはあなた次第、ですから」
「…どういうこと?」
ニノの声も、俺を見つめる瞳も、
どこまでも優しくて、縋りそうになる。
「…俺はね、大野さん。
ただあなたと仲良くなりたいだけなんです」
「…え?」
ニノの指が、血管をなぞるように
俺の手の甲を撫でる。
「そもそも、あなたの住む304号室…
そこの住人は代々俺の『お友達』なんです」
「……」
『お友達』…
多分、額面通りの意味じゃない…
「ふふっ…俺ね、あなたのこと、すごく
気に入ったんです。歴代の304号室の
住人の中でも一番、かな?
だから、あなたとは『特に仲の良いお友達』
になりたいと思ってます」
さすがに気が付いた。
これは取引を持ち掛けられてるんだって。
あの動画は、脅しの材料だ。
ベランダに投げたピーナッツを、鳥が食べに
来ることを知っていたニノ。
俺の前の住人にも…
同じようなことをしてたんだろうか。
「具体的には…どうすればいいの?」
「土日は俺のために空けておいてください。
一緒に造花造りをして遊びましょう。
それから…ぜひ泊まっていってください。
ついでに、俺の欲求を満たしてくれたら
嬉しいです」
「それだけ?」
「そうです。簡単でしょ?」
「…わかった」
なんにしても、俺に選択肢はない。
内職の手伝いと性処理の相手…
それで済むなら…
そう思う反面、すごく悲しかった。
ニノ…
仲良くなりたい、友達になれたらって…
俺も思ってたよ…
思ってたんだよ…
なのに…
『この部屋は危険だ』―――
最初に足を踏み入れた時、
確かに本能がそう警告を発していた。
なのに、
結局俺は…
遠くで、春雷が鳴っていた。
(②おわり③に続く)