本当に純愛だと思った。ギタリスト槙野聡史とジャーナリスト小峰洋子は、3回しか会ったことがないにもかかわらず、互いに惹かれ合い尊敬し合う理想的なカップルだと思う。それなのにそんな2人の仲を、偽メールで引き裂いてしまったマネージャー三谷早苗を、私は心から憎んだ。悔しくてやりきれない思いがした。いくら槙野を愛しているからといって、そのような卑怯な手を使って槙野聡史を自分のものにしても、彼女の良心が咎めるのではないか。
ただ、2人が出会っていなければ、間違えなく槙野聡史は三谷早苗と、小峰洋子はリチャードと結婚しているだろう。2組のカップルにはやがて子供も生まれ、5年半の歳月が流れた。ニューヨークのコンサートで2人が再会した場面は、本当に感動的だった。そして今までの誤解とわだかまりを解いてほしいと願った。2人には子供もいてそれぞれの家庭もあるので、結婚するのは難しいかもしれないが、互いに尊敬し合える友人として末永く交流していってほしい。
この小説の根底に流れていた「過去は変えられる」というテーマも重かった。確かに未来の経験が、過去を良くも悪くも変えていくことができるのだろう。
作者の平野啓一郎さんは、音楽にも文学にも社会情勢にも造詣が深く、博学な方だと思った。そんな彼の深い教養が、この小説を重厚で中身の濃い作品にしているのだろう。