ロードレースの最高峰といわれるツール・ド・フランスが終了した。昨年まではまったく意識していなかったこの大会、オリンピックやワールドカップと合わせて世界三大スポーツとされていると聞いても俄には信じ難かった。かなり前に読んだ近藤史恵氏の小説「サクリファイス」をはじめとするロードレース作品群は、小説としての面白さは抜群であったが同競技独特のルール的なものについては今ひとつ馴染めなかったことを覚えている。それでも昨年、自らがロードバイクに乗るようになったこともあり、ちょうどネットフリックスで公開されたばかりのドキュメンタリー「ツール・ド・フランス 栄冠は風の彼方に」を観て度肝を抜かれた。初めてまともに見るツール・ド・フランスの競技風景は、単純に絵的なインパクトが凄すぎて圧倒されてしまった。200台近いマシンが集団となって走るプロトン、山岳コースで選手に群がる観衆の姿。何という迫力、何という熱狂なのか。これまでどのスポーツでも見たこともない映像であり、どんな映画監督でも描けないと思われる圧倒的な絵面を眺めているだけで心が揺さぶられる。そんなわけで、今年は有料チャンネルであるJSPOTSに加入して開幕からレースの経過を追ってきた。といっても、時差の関係からゴール時間は日付が変わった午前1時以降というケースが多いので、睡魔に負けて残り数十kmという良いところで力尽きることも多いのだが…。一応は愛車であるピナレロを使用するチーム「イネオス・グレナディアーズ」を応援するものの、残念ながら今年は区間優勝はなし。それにしても、平坦では時速70kmを超え、10%前後の勾配でも20km以上で走る選手たちの運動能力には目が点にならざるを得ない。ランニングに熱中していた頃もそうだったか、いざ自分でトライしてみるとプロとの差があまりに圧倒的すぎて目眩がする。

 そんなわけで、このツール・ド・フランスに完全に感化され、背骨の骨折以来ご無沙汰となっていた平日の夜練を復活。膝や心臓への負担を気にし過ぎていたこれまでを反省し、少しだけ意識して身体に負荷をかけるようにしている。夜といっても蒸し暑さは相当なもので、少しペダルを漕ぐだけであっという間に全身が汗塗れになってしまうが、日焼け対策は必要ないし直射日光がないだけでも日中に比べると快適である。大抵は尾根幹を周回する走り慣れた45km前後のコースだが、もうずっと同じところを走っているので最近は近隣のオプションルートも開拓するようにしている。先日は、有名なよみうりランドへ至るV坂を初めて走ってみた。タイムは3分40秒ほどと絶望的に遅いが、これまでまともにトレーニングらしきことはしていないので伸び代は十分にあると信じたい。計測終了点からさらに先、ライトアップされた夜の遊園地には何となく心が踊り、こっそりと潜入したい誘惑にかられてしまう。

 少し北側の連光寺坂、さらに一周10km程度の「小山田周回」といったルートも走ってみては、自らの貧脚ぶりを思い知らされる。それでも、激しく喘ぎながらたどり着いた小高い丘の上から、彼方に広がる夜景を眺めつつダウンヒルで下っていくという行為は、ちょっと他に思い当たるものがないぐらい爽快感に溢れて気持ちの良いものである。

 心臓に持病を抱えている以上、あまり無茶なトレーニングは控えなければならないが、よりロードバイクを楽しむためには無理のない範囲で今後の身体能力の向上を目指したい。