菊花達三姉妹も居間に集まり暫くおしゃべりをする事にした。

勇治郎様は初めてゆっくりと居間にお座りに成られてのだと思う、父もそうだが、女四人の中に一人置かれては、少し落ち着かないのか、ご自分の書斎に行かれる事がある。

しかし御話をする機会がなかなか無いので、出来るだけ一緒にはお座りに成っては下さる。


勇治郎様は、女性陣が刺繍を持ち出し手作業を始めると、手持無沙汰になったのか、書庫にある、本を御覧に成っていらっしゃる、江姉さまが、

「どれでも、読んで良いのよ」とお声を掛けられたので、御覧に成っていらっしゃるのだ。


さきがコーヒーを持ってきてくれたので、今日は都さんが、皆様に配っている。何時もは菊花か江姉さまが配るのだが、都さんが気を利かせて下さる。此処にもほんの少しだが、変わりつつある物があるのだ、菊花は江姉さまと顔を見合わせて、都さんに「有難う」と言いながら、江姉さまの寂しい頬笑みを感じた。


勇治郎様は父の趣味の釣りの本をお取りに成り、コーヒーを飲みながら、ページをめくっていらっしゃる。

「江姉さま、お仕事は大変では無い?」都さんはこの頃ご自分も、お手伝いだけでなく、決まってお仕事が出来るので、とっても張り切っていらっしゃって、来年にはクラス担任になれたらとお思いに成っているようだ、それも、希望としては、ご結婚されても長く続けられたらと思っていて、既に結婚してお仕事を続けていらっしゃる江姉さまが目標で、何か上手く行く方法を考えたいのだ。


「しずが手伝ってくれているし、まだ一カ月もたってはいないんですもの、是からでしょうね、色々と不都合な事が出てくるのは」横で、勇治郎様が

「そうだね、本当はしずさんにもお手伝いをして頂くのは気が引けているのだが、今はまだ有り難くお願いしている方が良いと思っている、都さんは結婚の予定でもあるの?」と聞かれて、都さんは慌てている。

「いいえ、情報収集、まだ相手の方がいらっしゃらないのですもの、でも何時でも準備はしておいた方が良いって、で毎日こうして刺繍や縫物をしているって訳」手に持った枕カバーの刺繍枠を持ち上げて見せた。


「ああ、そう言えば良く似た生地だと思っていたんだ、江さんも自分で刺繍をしたんだね」と江姉さまの御顔を見て頷く。

姉さまは笑っていらっしゃる。

初めて女姉妹と同席して、お話をする事が出来ないで困っていらっしゃるのだ、菊花達も女性が主導権を握って御話をする事が多かった夕食後の家族のだんらんに、男性がお一人お入りに成っただけで、話す事が思い浮かばない、もっと、江姉さまの近況やお仕事の具合等を聞きたいのだが、単刀直入に御尋ねするのに気が引ける。

こう言う事も変わって行く事の一つなのだろう。



テレビをお付けに成りながら、都さんの手元を見て感心していらっしゃる。

「此のお部屋ではおタバコは御召しに成らないの、応接間か、お外においでに成らなければ成らないわ、応接間は御客様ですもの、お外においで頂ける?」

勇治郎様はおタバコを吹かされるようで、江姉さまが手持無沙汰でっテレビのリモコンをもてあそんでいる勇治郎様に外で風に当ってくるように気を使っていらっしゃる。


勇治郎様が外に出ていかれて暫くすると、さきが呼びに来た、白井様がお帰りに成られるのだ、勇治郎様のお車でお送りするので、江姉さまもご一緒にお帰りに成る。皆で玄関に御見送りに行ったが、結局お母様は、江姉さまと少しはおはなしが出来たのかしら?


白井様は菊花達の御見送りを当然と言う御顔で、

「じゃ、また近いうちに」と言い置いて勇治郎様のお車に乗り込みお帰りに成られた。


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