気がつけば沙羅の回りを数人の大柄な男の子が回りを覆うような形で出口の方に向かって動いて行く。

沙羅は、身動きしようにも動けなくて段々出口に押されていく。

沙羅が出口に押し出された時に大きな声を出したが、他のヤジを飛ばしている連中に邪魔されて、直美の耳には聞こえないのか、他の数人に囲まれて困っているようだ。

森さんにも声が届いていないのか。ドアの陰の部分に立っていたのが災いして、反対の出口から押し出されていく沙羅に気付かないようだ。

中でも数人の学生っぽい人達がやんややんやと怒鳴っている。

出口を出て右に廻ると直ぐ階段が有り、其処まで来ると両方から腕を取られて階段を持ち上げられるように運ばれた。

「静かにした方が良い」と後ろからとても低い声で背中を押されて沙羅は大声を出すのが怖くなってしまった。

校舎沿いを通り校舎出入口の大きな木の横を通って、校門付近が見えてきた途端沙羅は本当に怖くなってしまって、足がすくんで動けなくなってしまった。

先にこの前のスポーツタイプの車が止まっているのが見えた。

今日は人が多く混むのが予想されて車は余り使わないようになっていたはず、それが校舎から見える所に止まっているのは、

沙羅は誘拐されそうになっているのではないだろうか?

あの車に乗せられてしまったら、誰にも助けてもらえない、沙羅が歩くのを止めてしまったので、両方から腕をとっていた男二人が、二の腕を力一杯持ち上げ抱えるように引きずって行く。

その時にポケットに入れた携帯のバイブが振動している。

喫茶コーナーでは携帯は音が出ないようにバイブにしてあったのだ、でも両肘を捕まえられているので、出る事が出来ない。


沙羅の通う女子高は学校行事に力を入れているのが有名で、特に文化祭は、近隣のみならず遠くの学生達までもが聞き及んで繰り出す。その上女子高特有の父兄の見学も多いので朝の時間や行事が終わった引け時の時間校門前の一方通行の車道にも人が溢れる。

なので、森君一人では厳しいだろうと諒助叔父と、桐村さんも見に来ていた。

この電話は沙羅を見失った森さんか、森さんから報告を受けた諒助叔父が掛けているに違いない。

沙羅は電話に出る事が出来ず、大きく腕を振って見たが痛いだけで腕は引き放せせなかった。

きっと何らかの動きが有るはずだから気を付けるようにと、諒助叔父に注意されていたのにと沙羅は涙があふれ出した。

校門の蔭から桐村さんの姿が見えた諒助叔父が横で携帯で何か話している。

「叔父さん!!」沙羅が呼ぶと同時に桐村さんが気付き駆けだす、

気付いた諒助叔父も続いて掛けて来た、腕を掴んでいた二人が慌てて沙羅を掴んだまま駆けだすが、車に行くには桐村さんの来る方角に向かわ無ければならない。沙羅を抱えんばかりに一人の男が走りだし、もう一人が桐村さんにぶつかる、沙羅が足を踏ん張って抵抗している間に諒助叔父が掛けて来て桐村さんの加勢加わった。

桐村さんが一人を振り切って沙羅の腕を掴んで引き寄せたので、沙羅は両方から引っ張られ痛くて思わず悲鳴を上げる。






桐村さんに蹴られた男が転んだ時に沙羅も引っ張られて転びそうになるのを、危うく桐村さんの腕に抱き寄せられる。

沙羅は桐村さんの腕にしがみつく。

沙羅を追って森さんと先生方が走って来るのが見えて学生達は慌てて逃げて行った。

沙羅は桐村さんに抱きしめられた。

諒助叔父が学生の一人を捕まえて離さなかったので、その学生は大人しくなった。