迷宮物語
眉村卓【著】 福島敦子・森本晃司・なかむらたかし・川尻善昭【イラスト】 角川文庫 |
伴門淘汰は、地中へと下降した。現実にはあり得ない階段をくだっている。やがて、地上の記憶すらなくなりつつあった。
この不思議な世界は皆、誰かの投影なのか、ひらひらの人間たちが漂っているだけである。歪んだ風景。そして、擬似夕日―――。
過去と未来をかけめぐり、私たちを夢の磁場へと誘う、今、迷宮の扉が開く……。書下しSF幻想譚。
(カバーの折り返しより)
小説よりも、もしかしたらOVAの方が有名かもしれません。OVAの方は3つの物語によるオムニバスになっていて、監督はりんたろう氏、大友克洋氏、川尻善昭氏の三人でした。
原作の方はオムニバス形式ではなく、様々な話が分解されてモザイクのように組み合わされた構成になっていて、独特の雰囲気を醸し出しています。
断片を繋ぎ合わせても一つの話がちゃんと出来上がらない、というのがこの小説のミソです。読者は、気になる断片(エピソード)があったとしても、その断片の続きを読むことができないのです。「ああ、この断片の続きが知りたいなぁ…」と思っても、違う断片が次々と出てきて、頭が混乱してしまうのです。
挿絵を4人のイラストレーターが描いているのも、この小説の特徴の一つです。異なった画風の挿絵をちりばめることにより、この小説の独特な雰囲気を強調することに成功しています。
カバーの折り返しでは、この小説を「SF幻想譚」と称していますが、SF臭はほとんどなく、純粋な幻想小説だと思います。(エピソードの中にはSF風のものもありますが、小説全体はSFではない、ということです。)
巻末の解説は中島梓さんが書いているのですが、小説の解説というより著者本人の解説になっていて、とても面白いです。
小説もOVAも現在は入手困難となっていますが、小説の方はユーズドなら手に入りやすいようです。
- 眉村 卓
- 迷宮物語
- 《DVD》
- 迷宮物語 (アトラス)
ヤマトの火
星野之宣【著】 メディアファクトリー (2005-02-19発行) 定価:590円 (購入時の価格は105円) 稀少度★ 古代文明度★★★★★ |
《いくつもの火山を有する日本列島。はるか縄文の古代より火の山を崇め、火の力に陶酔した人々たち、父の残した『火の民族仮説』に記されたこの先住民族たちの謎を追って熱雷岳彦の旅は沖縄から始まった。そして古くから伝わる沖縄の神女達の秘密の祭り、ニライカナイ祭を取材に来た記者・石上、60年に一度の秘祭で彼らが遭遇したものとは!?》(裏表紙より)
邪馬台国と卑弥呼の謎を沖縄と結びつけた古代史漫画です。多少強引に感じられる部分もありますが、かなり説得力のある内容なので、古代史マニアの方におすすめできる漫画です。
作者のあとがきによると、この漫画はわずか3ヶ月ほどで未完のまま連載を終えてしまったそうです。のちに『ヤマタイカ』という漫画によってリメイクされ、こちらはちゃんと完結したようですが、残念ながら私はまだ読んでいません。
卑弥呼と沖縄を結びつけた漫画は、他にも山岸凉子の『青青(あお)の時代』という作品があるので、併せて読んでみると面白いかもしれません。
《関連書籍》
- 星野 之宣
- ヤマタイカ (第1巻)
- 山岸 凉子
- 青青(あお)の時代 (1)
ANTIQUE PERFUME BOTTLES
伊豆一碧湖香りの美術館【発行】 (1997-04-21発行) 定価:?円 (購入時の価格は100円) 稀少度★★★★★ アンティーク度★★★★★ |
発行が「伊豆一碧湖香りの美術館」になっているので、おそらくはこの美術館のミュージアムショップで売られていた図録なのではないかと思います。大きさは単行本と文庫本の中間くらいです。
19世紀末から1945年頃にかけてフランスやアメリカを中心にしておこったブランド香水ブーム時代の香水瓶が紹介されているのですが、とにかく写真が超綺麗!見ているだけで楽しくなります。この美術館に是非行ってみたくなりました
《関連サイト》
伊豆一碧湖香りの美術館
未確認物体大百科
勁文社 (1992-3-1出版) 定価:880円(+税) (購入時の価格は315円) 稀少度★★★★★ トンデモ度★★ |
【UFO】エイリアンとの接近遭遇で何が起こったのか!
【UMA】恐怖をもたらす知られざる怪物の実体!
【オーパーツ】太古に存在した驚くべき技術とは?
(裏表紙より)
ケイブンシャの大百科シリーズのNo.695です。一見トンデモ本に見えますが、中身は意外と真面目な内容です。信憑性の薄い話の場合にはちゃんとそう明記されているあたり、編集部の心遣いが垣間見えて、好感が持てます。さすがは勁文社、お子ちゃま向けの本のキャリアは伊達ではありません。
巻頭のカラーページには、オカルト系の食玩の紹介も載っているので、食玩マニアにも楽しめる本です。
残念ながら、amazonではこの本は入手不可能になっています。購入するにはオークションしかないかもしれません。
時の贈りもの
時の贈りもの
からくり時計・夢の世界
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「みらいふぉとらいぶらりー」シリーズの第1回配本。このシリーズは、「私たちの社会に存在する事や物を、写真や文章(詩)で類型的にとらえ描き出すことによって、一つの新しい世界を創出しようとするもの」だそうです。
詩を担当している藤田悦子さんは、出版社勤務の傍ら、童謡を中心に創作活動を続けている方だそうです。
メルヘンチックなからくり時計の写真がたくさん掲載されているので、まるで絵本のような印象を受けます。小さなお子さんにも楽しめる本です。
この本、定価は1648円で、私が古本屋で購入した価格は105円だったのですが、amazonで検索してみたらマーケットプレイスで3200円~3800円もの値段がついています。なにやら付加価値がついているのでしょうか・・・
- ふじた えつこ
- 時の贈りもの―からくり時計・夢の世界
辻村ジュサブローの世界(人形芝居「海神別荘」パンフレット)
辻村ジュサブローの世界
(人形芝居「海神別荘」パンフレット)
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昭和55年11月8日~27日まで銀座の博品館劇場で公演された人形芝居「海神別荘」のパンフレットです。原作は泉鏡花、脚本・演出・美術担当は人形師の辻村ジュサブロー(寿三郎)です。
《あらすじ》
薄情な父の手により、金銀財宝と交換に海底に住む公子のもとへ輿入れすることになった姫は、道中で鮫の集団に襲われたところを毒龍の鎧兜に身を固めた公子に助けられます。
龍宮城のような美しい世界に住んでいる自分を親に見せたいと懇願する姫ですが、公子から「貴方は、もう人間ではない。蛇身なのだ」と諭されます。公子の言葉が信じられない姫は、陸の親に会いに行こうとしますが、故郷に姿を見せると鉄砲で狙われてしまいます。
「殺して、貴方のお手で、もう何もいりません。故郷の親も忘れました」と泣き悲しむ姫。公子の高潔な精神の刃で痛みもなく殺された姫は、新たに活きかえり、二人は心を通い合わせます。故郷の浦の磯に咲き乱れた龍胆と撫子の花は、公子と姫の血の俤なのかもしれません・・・
泉鏡花の幻想と狂気の世界と辻村氏の作る華麗な人形が見事にマッチし、パンフレットの写真と解説だけでもその完成度の高さを窺い知ることができるお芝居です。
辻村氏がこの公演のために作った人形の数は31体にも上り、その他大勢として出てくる魚達等を含めると60体を越えるそうです。パンフレットには辻村氏が人形を制作する過程も写真付きで解説されています。
《関連書籍》
- 泉 鏡花
- 海神別荘―他二篇
- 辻村 ジュサブロー
- ジュサブロー
- 辻村 寿三郎
- 辻村寿三郎―人形曼陀羅
ペンギンたんけんたい
斉藤洋【作】 高畠純【絵】 講談社 (1991-08-20出版) 定価:854円 (購入時の価格は105円) 稀少度★ 読み聞かせ度★★★★★ |
NHKの子供番組で時々取り上げられているので、御存知の方が多い本かもしれません。
50匹からなる「ペンギンたんけんたい」は、ライオンやニシキヘビなどの怖い動物をものともせず、南の島をどんどんどんどん突き進みます。はたして、ペンギンたちの目的とは・・・?
話がテンポ良く進み、「エンヤラドッコイ」の掛け声のリズムも楽しいので、幼稚園~小学一年生くらいの子供への読み聞かせに最適の本です。オチは大人でも笑えます(^^)
この本はシリーズ化されていて、他にも「ペンギンしょうぼうたい」「ペンギンおんがくたい」「ペンギンパトロールたい」「ペンギンサーカスだん」「ペンギンたんていだん」「ペンギンおうえんだん」があります。
- 斉藤 洋, 高畠 純
- ペンギンたんけんたい
《関連書籍》
斉藤 洋, 高畠 純
斉藤 洋, 高畠 純
斉藤 洋, 高畠 純
斉藤 洋, 高畠 純
斉藤 洋, 高畠 純
斉藤 洋, 高畠 純
ブルッキーのひつじ
M・B・ゴフスタイン【作】 谷川俊太郎【訳】 株式会社ジー・シー (1989-03-01出版) 定価:900円 (購入時の価格は105円) 稀少度★★ ほのぼの度★★★★★ |
文もイラストもとてもシンプルな絵本です。 ブルッキーという女の子がひつじに歌を歌ってあげたり、本を読んであげたりするのですが、ひつじは「めえ めえ めえ」しか言えません。だけど二人は大の仲良し・・・・・・そんな内容のお話です。 もしかしたら、この絵本よりも、この絵本にインスピレーションを受けて遊佐未森が作詞・作曲した『ブルッキーのひつじ』(アルバム『モモイズム』に収録)の方が有名かもしれません。(実は私も、絵本より先に、遊佐未森が作曲した曲の方を知りました) アルバム『モモイズム』のブックレットには、『ブルッキーのひつじ』のデータは1967年出版となっているので、私が古本屋で購入した方の『ブルッキーのひつじ』は再販版のようです。
- 谷川 俊太郎, M.B. ゴフスタイン
- ブルッキーのひつじ
《関連CD》
遊佐未森, 工藤順子, 外間隆史
幻想小説名作選
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《収録作品》
夢十夜(夏目漱石)/眉かくしの霊(泉鏡花)/柳湯の事件(谷崎潤一郎)/西班牙犬の家(佐藤春夫)/片腕(川端康成)/魚服記(太宰治)/おとしばなし 李白(石川淳)/恐怖屋敷(柴田連三郎)/黒いゴルフボール(源氏鶏太)/百メートルの樹木(吉行淳之介)/蜘蛛(遠藤周作)/待つ女(小松左京)/骨餓身峠死人葛(野坂昭如)/暗い海暗い声(生島治郎)/牧神の春(中井英夫)/風見鶏(都築道夫)/ボール箱(小松左京)
対談解説:小松左京・半村良
文学史上に残る名作や埋もれた傑作を収録した「日本名作シリーズ」(集英社文庫)の中の一冊です。すでに古典といってもいい作品から新しい作品(とはいっても、出版されたのは昭和54年なので、どんなに新しい作品でも昭和後期のものですが)まで、さまざまな幻想小説を収録した、とってもお得なアンソロジーです。
幻想小説には決まった形式があるわけではないので、収録されている作品はホラー風・ファンタジー風・民話風・ミステリー風など、様々なジャンルの小説が含まれています。
巻末の対談では、半村良と小松左京のお二人は、次のように語っています。
半村「最後に、ぼくがね、若い人たちに解ってもらいたいのは、幻想小説っていうのは一つのジャンルじゃなくて、すべての小説のあいだを埋めるエーテルみたいなものだから、いろんなスタイルがあって、それこそスタイルに制限がないってことなんです。無差別級小説ですね、これ。」
小松「無差別級バトルロイヤル、デス・マッチ小説(笑)。」
半村「だから明治時代を見ても、ちゃんとした小説家は、みんな書いてますね。」
小松「書いてるね。幻想文学というのは、要するに人をひきつけ、虚構の作品世界の中に引きずりこんで、あたかも異様な体験をさせるようなかたちで、ハラハラさせたり、一喜一憂させたりするわけだ。つまりはフィクションの基本ですな。」
この対談はとても面白いので、本当は全文を紹介したいところなのですが、長すぎるので、重要なところだけ抜粋しました。「幻想小説とは何か」という、酷く曖昧な定義を、見事に説明している部分だと思います。
この本は絶版なので、入手する場合はアマゾンのマーケットプレイスがおすすめですが、各作家の作品集にも収録されているはずですので、一作一作、地道に探してみるのも面白いかもしれません。
この本の雰囲気に良く似たアンソロジーに、澁澤達彦(編)の『暗黒のメルヘン』『変身のロマン』があります。こちらは、日本の作品だけでなく海外の作品も含まれています。幻想小説に興味をお持ちの方に、是非おすすめしたい本です。文庫版は平成になってから出版されているので、アマゾンで今すぐ購入できます。
- 半村 良
- 幻想小説名作選
《関連書籍》
澁澤 龍彦
- ジャック カゾット, アポリネール, フランツ カフカ, アンデルセン, 安部 公房, 澁澤 龍彦
- 変身のロマン
柴田昌弘SF短編集 エリカ
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『エリカ』『孤独(ひとりぼっち)のアダム』『サン・ルーム』『アンドロイド・シュン』の4編が収録された柴田昌弘のSF短編集です。『孤独のアダム』と『サン・ルーム』は朝日ソノラマから出版されている『柴田昌弘傑作集③ 未来都市バラン』に収録されていますが、『エリカ』と『アンドロイド・シュン』は(私が知る限りでは)学研以外からは出版されていません。(もし、出版されていたらすみません)
表題作の『エリカ』は、宇宙空間で事故にあった輸送船の中でひとり生き残った男が、セクサロイド(夜のお相手専用のアンドロイド)のエリカを人間へと改造し、地球に到達するまでの孤独を埋めようとする話です。柴田昌弘お得意の、ちょっとエッチな雰囲気のSFですが、ラストは心にジ~ンとくる感動の物語です。
『アンドロイド・シュン』は、柴田昌弘がデビュー前のアマチュア時代に「新月会」というサークルの同人誌で描いていた漫画で、未完のまま終わっています。この作品はのちに『ラブ・シンクロイド』として生まれ変わり、白泉社の「コミコミ」(廃刊)で連載されました。『ラブ・シンクロイド』のコミックスはスコラ社とメディアファクトリーから再版されています。
未完の『アンドロイド・シュン』を除き、『エリカ』『孤独のアダム』『サン・ルーム』の3編は切なさが溢れる物語で、メカやアクションが苦手な方でも、読みやすいSF漫画になっています。
この単行本は絶版となっていますが、アマゾンの「マーケットプレイス」なら入手が可能です。
柴田 昌弘
《関連書籍》
柴田 昌弘
柴田 昌弘