拓真が八歳の夏休みだった。
家族は東京近郊に旅行に行き、一泊した。
小さな温泉宿のような所だった気がする。
お風呂から上がってから、今なら古いと言われそうだが、
家族で卓球をしたようだった。
昔はよく温泉宿に卓球台があった。今でも、あの宿にはあるのだろうか。
「こんにちは、玲王(れお)くん。森弥拓真です。
君のおかあさんの、夫です。」
「こ・・こんにちは。嵯峨・・・玲王です。」
玲王は、はにかんでいるのか、下を向いたまま挨拶をした。
その手はすでに露海(ろみ)とつながれている。
「玲王、ちょっと座っててね。今お茶を入れてくるから。」
佳苗がカウンター式のダイニングに引っ込むと、露海は玲王の手を引っぱった。「おにいちゃん、座って。
ママね、何かおいしい物作ってるんだって。だから、待ってて。」
「あ、玲王くん、そこ座っていいよ。
自分の家だと思って遠慮しないで。」
拓真は玲王を座らせてから、自分の言葉をもう一度小さく口の中でつぶやいた。
「拓真、今日からここが拓真の家だ。
伯父さんと伯母さんを、本当のお父さん、お母さんて思って良いんだぞ。
遠慮するな、座れ、座れ。」「あなたったら、拓真くんびっくりしてるじゃない。」
豪快な伯父と違い、伯母は優しく気配りのできる人だった。
東北の田舎町が、拓真の第二の故郷になった瞬間だった。
拓真が病院のベッドで目を覚ました時、枕元にこの伯父と伯母がいた。
二人が大粒の涙を流しているのが見えた。
伯父が拓真の手を握り、伯母はすぐに医師を呼んできた。
「おにいちゃんは?」
拓真は最初に兄を探したそうだ。
そして、父と母の消息を尋ねた。
伯父は、別の部屋に寝ていると言った。
拓真が良くなったら、会えると言った。
まだ、体中管に巻かれているような状態の拓真は、黙って頷いたそうだ。
拓真が、父の運転する車に家族全員乗っていて事故にあい、
たった一人生き残った事を知ったのは、さらに一ヶ月後のことだった。
「中学生だから、コーヒー大丈夫よね?」
佳苗がリビングにコーヒーと軽いスナック菓子を持ってきた。
それから、またダイニングに引っ込んだ。
「おにいちゃん、お砂糖入れる?ミルクは?」「うん、じゃあお砂糖二つ、ミルクはちょっぴりかな?」
玲王は露海に合わせるように話した。
露海はぎこちない仕草で、砂糖、そしてミルクを入れる。
「いいなあ、おにいちゃん。
露海ね、まだ小さいからコーヒー駄目なんだって。いつもジュースなの。」「でも、露海ちゃん、お砂糖もミルクも、上手に入れられたね。
ありがとう。」
「どういたしまして。」
露海はペロッと舌を出した。
愛の糸 #26 へ続く
愛の糸 #24こちらから
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愛の糸 最初からは、こちら
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そして、またどこかの時代で
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