カビミット問題
道場のミットがどんどんカビだらけになっている。

 

湿気が多い場所柄、日に干す事もできず、

コロナ盛りの時は2年間、誰も使わなかった。

積みっぱなしはいけませんね。

 

「僕、一つ試しに洗濯してみます」

と一番綺麗好きなT先輩が、意を決したように仰る。

試しにって…、洗濯機に変なカビが移らないかしら?

「安いミットを最低限の数、購入しましょうか」

「安いのは、すぐペコペコになりませんか?」

「どうせカビるんだから、安物を買い替えて行く方がいい」

「けど、その費用は?」

年配紳士クラスを束ねるY先生、

「今まで指導料として道場から少しずつ頂いているので、

それで」

「いや、割り振って頂けたらお支払いしますよ」

と私。それ位、出さなきゃね。

「佐良さんだけ、10発叩いたら500円貰いましょう」

「げっ笑い泣き

道場もお金が有り余っていそうにないし(多分)、

さすが紳士集団だな…、と思う。

「壁一面に掛けて乾かせるようにしたいね」

「そういうの、師範が嫌がると思う」

 

師範は高機能の除湿器を送って下さったし、

師範代はこちらに来られるたびに、

カビ取り剤でこまめにお掃除される。

T先輩は、ご自分も小さいお子さんがいるので、

道場の子供達の健康をいつも心配されている。

 

稽古が始まる前、

こうして、カビミット問題を協議する土曜日午前クラス。

台風の影響で、湿気は確かに強い。

          宇宙人くん

 

最弱上等

 

台風気味のせいかどうか、

夕方の一般部は私とM先輩だけ。

相変わらず、私の黒帯の締め方はテキトーだ。

一応、Y先生に教わった通りにしたつもりだけど、

帯がまだ固いのもあって、昨日入った白帯さん状態。

見かねて、自ら締め直して下さるM先輩。

もはや少年部ですよ私。いい年して締めて貰ってる。

 

極真には欠かせない「息吹」。

カーーッて息を吐く動作、これ未だに下手…。

「意識すれば緑帯でも1か月でできるよ?」

スミマセン…。

丹田に「落とし込む」感覚も、掴めているのだろうか?

心許ない。

 

カビていないパンチングミットを持って下さり、

パンチで追いかけるんだけど、

左のフックをすると、手首が少し痛む。

あと、ミットで受ける人はヒットの瞬間、

少しミットを前に出しますが、これも結構痛い。

随分前に痛めたのが、まだ完治していなかったか。

普段、拳立てしても平気なのにな。

様子を見て切り上げて下さったのが、申し訳ないです。

とにかく、特に関節全般が弱くて困ります。

 

「黒帯になって、何か変わった事は?」

と聞かれ、

「気が付いたら、

史上最弱の黒帯が一人、誕生していました。

それまで、色帯の時はどんなに弱くたって、

許されていたと思うんですが…。

今、どこに身を置いたらいいのか、わかりません」

「それは健全な黒帯の悩みだね」

とM先輩。

「特に色帯なんかは、黒帯相手だったら何をしてもいい、

と思う奴もいるしなぁ」

「でも、本当はそうであるべきですね」

この間も、師範が仰ったもの。

『黒帯なら、色帯の攻撃は全部受けられなくては』

……あの時、私はできないって馬鹿正直に申し上げたっけ。

 

根性だけは

 

M先輩、少し遠い目で。

「ずっと昔いた女の子は男子ともバシバシやり合っていた。

若かったし、体力も運動神経も良かったし」

ふぇ~。

この道場初期にいた伝説の「女子初代黒帯1号さん」。

道場も活気があったし、師範も元気で恐ろしい存在で。

若い女の子たちが頑張っていると、

「若い男もつられてよく入ってきた(笑)」らしい。

その中でも、リーダー的存在だった1号さん、

彼女の話を聞くと、

私の学生時代の同期M田を彷彿とさせる。

いるんだよなぁ、うまくて強くて気っ風が良い子って。

 

かなわないですよ。

…どことなく、比べられているのかなぁ、

全然比べ物にならないですってば。

学生時代も感じていた、ザラッとしたものが久々に。

 

「それに彼女は根性があったし」

「…根性なら負けていなかったと思います」

自分でも思ってもいない言葉がポロリ。

あれあれ?

いや世界三大根性無しを自負しているでしょうに。

でもその時、なぜか、

●十年前の、裾短かな大学ロゴ入りの空手着姿の、

今よりぶっきらぼうだった私が口を開いた。

 

昔の極真流組手をやった事はないけど、

ここの道場では普段やらないような、

地獄の体力稽古は男女関係なく、いつもいつもやらされた。

山道を含む長距離を走った。

一番不出来ではあったけど、逃げた事はない。

 

異様に硬直した上下関係、単調で休憩なしの基本稽古。

世界三大根性無しだからこそ、

アレを4年間乗り越えたのは、我ながら奇跡だろう。

 

彼女も凄かっただろうけど、

私だって頑張っていたんですよ。

 

だから、その人とはやってみたかったです

言って自分でもビビった。

その方、道場を正式に辞めたとは聞いていない。

いきなり現れたらどうするんだ~。滝汗

 

けど、大学ロゴ入り空手着の若い私の方は、

(もっと、バチバチにぶつかり合ってみたい)

と当時、悶々としていたのだ。

今と違ってなぜか誰よりもケガがなく、

ひ弱なくせに元気で、筋肉もあり、10キロ多かった。

卒業後、もし私が道場にすぐ入っていれば、

それは可能だった、という事になる。

 

「若い女子とオバサン(悲)とでは、

正直、男性の手加減も自ずと違いますよ。

誰が若い女の子を本気でボコれますか?

あと、武道は運動神経だけではないと思います」

偉そうに色々言ってしまって、恥ずかしくなった。

 

着替えながら思ったけど、

M先輩が若いころ、ご自分の目で見たのは、

1号さんだけ。

私がいくら頑張っていました~と自負していても、

先輩が見ている私は、今の世界三大根性無し、

           (↑あと二人は誰だろう…)

猫より弱い最弱黒帯だもんなぁ。

ちょっと、ムキになっちゃったな。

 

伝説の人は今はここで着替えていない。

私は、ボロボロの体でろくに動けなかったけど、

少しずつ前に進み続けている。

ま、今なら案外、いい勝負ができるかもしれ…ない(?)

 

負けず嫌いだった若い私は、

青臭いままで今もしっかり、いるんだな。

我ながらびっくり。

どうせなら、お肌も当時のままでいたかったです…。

           女の子

余談ですが、

この間の師範代月1稽古で、

「佐良さんの黒帯姿、生で初めて見ました。

よくお似合いですよ」

2回も言って下さって、

木にでもサンドバッグにでも上りたい気持ちでしたハート

「だと良いのですが…。

似合うようになりたいです」

と申し上げると、頷いて下さいました。

それなら、

いい加減な帯の結び方をするんじゃない、って話ですが。