意外とテキトー

黒帯を締めて、

いつもの稽古に行くと、皆さん「おめでとう」

と言って下さいます。

 

佐良が驚くのは、

「黒帯の品質」

「刺繡の文字の配分やデザイン」

等に、男性陣は強く関心を示すこと。

「裏に文字が出ていない、いい作りだね。

刺繍した布と別の布を2枚合わせて作ると手間がかかる。

安物はこのまま縫うから裏に文字が出る」

「この縦のミシン目が多いと高い」

「残念。道場名が以前より小さくなっちゃったな」

「よく見ると、毎回微妙にデザインが違うねぇ」

帯を囲んでワイワイ。

以前、帯マニア(?)の方がいらして、

色々な知識を皆さんにも教えたんだそうです。

「まだ帯が固いから、洗濯したら?」

「えっ、黒帯って洗っていいんですか?びっくり

茶帯までは時々洗濯機に入れていましたが…。

「たまに洗っているよ?」

「最初は糊もついているからね」

学生時代に貰った黒帯は、多分洗った事がなかったかも。

 

私は100均で買った、

マジックテープ付きの黒いバンドで、

帯の結び目を解けないようにくくりつけています。

少年部か!

年配紳士軍団を束ねるY総帥が、

「正式な帯の結び方をすれば、そこまで結び目は膨らまない」

と苦い表情で、結び方を伝授して下さいました。

いつも定まった位置に結び目が来るようにしていくことで、

その部分が早く馴染んで結びやすくなるそうです。

 

私は、少しでも早く黒帯を取らないと、

1年ごとに体が動かなくなっているのだから、

今より苦労することになる。

その思いで、実力不相応を承知で、

「早く早く!」と必死に目指していました。

特にこの1年は切羽詰まった、

いつポキリ、と折れるかわからない息苦しさでした。

なのに、

取った黒帯への扱いは案外だなぁ、我ながら。

当分100均バンドで補強しておけ、

とモコモコの状態で平気ですから。

 

でも自分の知る限り、

師範はもっとラフで、あちこちのロッカー等に、

黒帯を何度も忘れて行かれたそうです。

金線が何本も入った黒帯…。当然お名前入り。

道着や防具を失くすよりもよっぽど、

自分だったら震え上がります…。

 

貫禄ある先輩方の中へ、

固い黒帯で入るのも気が引けるし、

我ながら鏡を見ると、「誰?」な状態。

<師範に段位を認可された>

というお墨付きさえあれば、

帯なんて本当は何だっていいのかも知れません。

が、やはり先輩方は日常的に、

他人の帯の段位を素早くチェックしますね。

 

怪しい奴

稽古の後で、

Y先生が集合写真を撮影し、

LINEで師範代にお送りされます。

「佐良初段」

1人だけガチガチに緊張して立っている、

いかにも弱っちい謎の黒帯、

こんなヤツいたっけ?

まるで座敷童です。

と、すぐに可愛いスタンプつきのお返事が来ましたイエローハートイエローハーツ

和みました。

 

まだ白帯だった頃

本部道場で師範にお声がけ頂いた時のこと。

何かの話から、

「自分は黒帯になります」

「何?」

それまで、慈父のような表情だったのが一変し、

キッと見据えられた時の衝撃は例えようがありません。

大袈裟ではなく、

その瞬間、周囲が真黒くなりました。

古い漫画なんかでよくある、

暗闇状態で睨みあう二人、相手の眼だけが光ってる。

あの場面が本当に目の前にあったんです。

後にも先にも、あれ程の眼力は見たことがありません。

(簡単に認められると思っているのか?)

人と言うより、空手に憑りつかれた何者かの眼。

僅かな意地だけで必死に耐えていました…。

 

あれから5年

<黒帯にたどり着けさえすれば、

師範による有段者稽古にも参加できるし、

星稼ぎのために、出たくもない試合に出る事もない。

自分のペースでじっくり稽古をすればいい>

と思っていたんですが。

以前にも自分で書いたように、

 

<今までは「黒帯を目指す弱者」だったのが、

 単なる「弱い黒帯」でしかなくなる>

 

まぁ、黒帯はゴールじゃなくて、

本当の弟子入りの始まりに過ぎませんし…、

でも、若者が帯を取って「さあ、これから!」

と意気込むのとは、やはり違いますね。

(ああ、くたびれた)

体もですが、心が凄く鈍麻したような気がする。

常に、

<こんなに下手で弱いのでは、黒帯は無理>

と涙をこらえながら、

悔しい悔しいと思いながら、

毎回弾き飛ばされながら、

勝っても褒められず、

5年間。

自信のカケラもないしなぁ。